真・祈りの巫女74
 翌朝、あたしは少しベッドの脇でうとうとしてしまったみたい。目を覚ましたときには日もずいぶん高くなっていて、午前中は日が当たらないこの部屋にも少しだけ光が差し込んできていた。ベッドのオミは寝息も穏やかで、あたしがいることには気づいていないようによく眠っている。宿舎の入り口の扉が開く音がして、かすかにタキの声がしたから、どうやらあたしはタキが来たときのノックの音で目覚めてしまったらしかった。
 カーヤがタキを招き入れている声も小さく聞こえた。たぶん2人とも、あたしとオミに気を遣って、声を潜めてくれているんだ。
「祈りの巫女は? まだオミの部屋?」
「ええ、昨日から1歩も出てこないわ。もしかしたら眠ってるのかもしれない」
「カーヤ、……改めてお悔やみを言うよ。……弟さん、残念だった」
 あたし、聞くつもりはぜんぜんなかったけど、いつのまにか2人の会話を聞いてしまっていた。カーヤ、昨日の災厄で弟を亡くしていたんだ。あたしは自分のことだけに夢中で、カーヤの家族のことは聞きもしなかった。
 一気に目が醒めたようになって、あたしは椅子から立ち上がって、部屋のドアを開けようとした。その時またタキの声が聞こえてきて、あたしの名前を口にしたから、あたしは思わず足を止めてしまったの。
「祈りの巫女が眠ってるならいいんだ。守護の巫女も、目を覚ますまではそのままそっとしておくようにって言ってたから。……カーヤ、君は、祈りの巫女の様子、気にならなかった?」
 部屋を出るタイミングを逃してしまって、そのままドアの向こうの声に耳を傾けた。
「……ええ。どこがどう違うって、はっきり言えないのだけど、昨日はいつものユーナじゃなかったわ。……そう、まるで、両親が死んだことを信じていないみたい。普通なら自分の両親が死んだらもっと悲しむと思うの。……ユーナ、悲しんでなかった ―― 」
 2人の会話は、聞こえてはいたけれど、あたしの中に深く入ってくることはなかった。なんだか考えるのが面倒だった。そんなことよりもあたしには考えなければならないことがいっぱいあるんだもん。
 あたしはわざと音を立てて椅子を動かした。そして、ドアを開けて、2人がいる食卓へと向かった。