真・祈りの巫女73
 タキが戻ってきたとき、うしろには守護の巫女が一緒についてきていた。そこでもひと悶着あって、怪我人のオミをはさんであたしは必死で守護の巫女に食い下がった。途中でローグが他の怪我人の治療を終えてやってきて、オミをひと目見て言ったの。
「死ぬほどの怪我じゃないが、こんなところにいつまでも放置しておいていい怪我でもない。早くベッドに案内してくれ」
「神官のベッドがいっぱいなのよ。だから今相談しているの」
「ベッドならあたしの部屋にあるわ」
「だったら早く祈りの巫女のベッドに寝かせてやるんだ。相談が長引けば、死ななくてもいい男が1人死ぬことになるぞ」
 けっきょく、この問答に決着をつけたのは、ローグのこの一声だったんだ。ローグはほとんど強引にオミをあたしの勉強部屋へと運んで、そこで傷の具合を診てくれたの。最初にローグが言ったとおり、オミは擦り傷や切り傷は多かったけれど、それが治れば普通に生活できるだろうって話だった。
 ローグを見送るために扉近くまで来たとき、ローグはいったん足を止めた。
「祈りの巫女、オミの様子をずっと見ていてくれるかな。……もちろん、君の仕事の合間で十分なんだけど」
 あたしは最初からそのつもりだったから、ローグに大きくうなずいた。
「オミの話をよく聞いてやって欲しいんだ。もう、オミには君しかいない。君がいなければオミはたった1人になってしまうんだよ」
 判ってたから、あたしはローグを安心させるように、少しだけ微笑んだ。そうしてローグを見送って、再びオミの病室に戻ってくる。あたしの勉強部屋が今日からオミの病室だった。たぶん、またカーヤに苦労をかけてしまうけれど、あたしはオミが傍にいてくれることがすごく嬉しかったんだ。
 オミの寝顔を、あたしは勉強机の椅子を引いてきて、そっと覗き込む。そうしてしばらく見ていたら、不意にその姿勢が、昼間リョウがきていたときと同じだということに気が付いた。リョウもこんな風に、あのあと寝付いたあたしの寝顔を眺めたのかもしれない。
 この日夜が明けるまで、あたしはオミの寝顔を見つめつづけていた。だからあたしは、両親のことも、祈りのことも、影のことも村のことも、何も考えずにいられたんだ。