真・祈りの巫女70
 もしかしたらあたしは、自分の両親が死んだことを必死で頭の中から追い出そうとしていたのかもしれない。できるだけ意識の上にのぼらせないように、無意識の中に封じ込めていた。ランドが言った一言で、あたしは意識を向ける別の対象を見つけたの。だからあたしはまるでしがみつくようにオミのことだけで頭をいっぱいにしようとしたんだ。
「オミはどうしたの? やっぱり家の下敷きになったの?」
「ああ。追ってくる影から逃げている途中で崩れた建物の下敷きになった。だけどその現場を見てた人がいてな、すぐに助けられたんだ。……おまえの両親の話を聞いたか?」
 あたしが首を振ると、ランドはチラッとタキを見て、それからまたあたしに向き直った。
「影はおまえの家を壊して、家から飛び出して逃げた両親を執拗に追いかけたんだ。まるで初めから狙ってたみたいに。……オミが崩れた建物の下敷きになって、そのあとすぐにオキたちは影に踏み潰された。その、一部始終を、オミは見ていた」
 前のとき、影は人を襲ったりしなかった。今度の影は人を襲うような生き物だったの? それとも……それがあたしの両親だったから、影は人を襲ったの……?
 父さまと母さまは、あたしの両親だったから、影に狙われてしまったの……?
「祈りの巫女」
 タキが声をかけて、あたしの思考を遮ってくれた。
「ちょっと気になることがあるから、オレはいったん宿舎の方へ行ってみるよ。祈りの巫女は広場の方にいてくれる?」
「……ええ、判ったわ」
「ランド、あなたは祈りの巫女のことを……」
「ああ。ユーナのことはオレに任せておけ。大丈夫だ」
 そう言ってタキが走り去って、あたしとランドもタキのあとを追うように神殿に引き返していった。ランドに肩を押されて歩いている間も、あたしはいったい自分が何を考えたらいいのか、まったく判らずにいた。