真・祈りの巫女64
「 ―― ユーナ、そろそろ真夜中になるわ」
 眠りに就いていたあたしを目覚めさせてくれたのは、カーヤのその声だった。目を開けると部屋のドアを開けてカーヤが覗き込んでいる。あたりは静かだったけど、たぶん宿舎の外にはたくさんの巫女や神官がいるのだろう。静けさを装った緊張感が部屋の中にも届いてきているようだった。
「カーヤ……。ずっと起きていたの?」
「ええ、なんだか緊張して眠れなくて」
「朝からずっと働き通しだったじゃない。あたし、もう目がさめたから、少し眠った方がいいわよ」
「……そうね、あたしはこれからしばらくはすることがないから、もし眠れそうだったらそうするわ。……ユーナ、食事は?」
「時間ありそう? だったらいただくわ」
 カーヤはあたしの食事を用意してくれていたから、タキがくるまでの短い時間で詰め込んだ。やがて遠慮がちに宿舎の扉がノックされて、ひと眠りしたらしいタキがやってくる。
 迎えに来たタキと一緒に神殿前に行くと、守護の巫女がほかの巫女や神官たちを集めて、いろいろ指示を出しているところだった。みんな声を落としていて、まるで影に聞かれるのを恐れているみたい。
 あたしの姿を見て、守護の巫女はいつもの笑顔を見せた。
「祈りの巫女、こんな真夜中にご苦労様」
「守護の巫女もよ。……ちゃんと眠ったの?」
 夜目でそれほどはっきりとは見えなかったけど、守護の巫女はあたしには少し疲れているように見えた。
「私はいいのよ。あなたのように神様に祈りを捧げる訳じゃないもの。祈りの巫女、あなたはきちんと睡眠を取ってちょうだいね。ほんの少しでも時間があったら、食べて、眠るのよ」
 精神が充実していないと、神様に祈りを届けるのは難しい。だから、きちんと食べてきちんと眠るのも、あたしの大切な仕事なんだ。