真・祈りの巫女63
 タキとまた真夜中会う約束をして、宿舎に帰るとテーブルに夕食の用意がしてあった。カーヤはまだ忙しいみたいで帰っていない。1人分だけ用意された食卓で、あたしはほとんど初めて、独りだけで食事をしたの。それから部屋に帰って日記をつける。今日の出来事はすごくたくさんあって、詳しく書いていたら時間もかかったのだけど、なんとかぜんぶ書き終えてあたしはベッドに入った。
 考えても仕方がないことは判っていたけど、あたしは考えずにはいられなかった。あたしの祈りは未来を変えることができないんだ、ってこと。この災厄が起きる前も、あたしはずっと村の平和を祈ってきた。その祈りはほぼ毎日欠かしたことがなくて、だから祈りが届いていたら最初の災厄がやってくることだってなかったはずなんだ。あたしが今まで村の人のために祈ってきたこと、それはほとんど叶えられてきてる。だから祈りの力がまったく届かない訳じゃない。
 あたしの祈りの力が足りないんだ。村の人の願いを叶えることはできても、未来を変えることはできないんだ。
 神託の巫女は、あたしが常に人の運命を変えているんだって言ってた。だから未来を変えることができるかもしれない、って。……神託の巫女、あたし、未来を変えることができないよ。あなたがあんなにあたしに期待してくれたのに。
 人の寿命を延ばす祈り。セーラが命をかけて祈った時、終わるはずだったジムの命は存えた。もしもあたしが命をかけたら、村の未来を変えることもできるの……?
 祈りの巫女は、その時代に必要とされて生まれてくる。あたしはこの災厄のために生まれてきたんだ。だから、ぜったい、この災厄を退けることができるはず。だって、神様はそれができると信じて、あたしにその役割を授けてくださったんだから。
 災厄が去った時、あたしは生きていないかもしれない。それを思うと怖かった。怖くて、あたしは自然にその名前を口にしていた。
「リョウ……」
 こんな風に名前を呼んだことなんかなかったよ。リョウ、今何をしてるの? 見張りの準備で忙しいの? ほんの少しでも、あたしのことを思い出してくれてる?
 1度外して引き出しにしまった髪飾り。もう1度取り出して、あたしは握り締めた。リョウが傍にいてくれることを感じたくて ――
  ―― お願い。リョウにも、誰にも頼らないで、独りで戦う勇気をください。