真・祈りの巫女62
 運命の巫女が見える未来は、既に決まってしまった未来。今日のあたしはずっと神殿で祈りを捧げてきた。この災厄が、この先もう2度と訪れないように、って。今回運命の巫女が予言した3回目の災厄は、それまで見えなかった未来だから、ほんの少し前までは決まっていなかったんだ。それが決まってしまったということは、あたしの祈りが神様に届いていなかったことを意味している。
 みんながあたしに内緒で何を話していたのかが判ったの。もしかしたらこれだけじゃないかもしれないけど、少なくともその1つは、『あたしの祈りでは、この災厄が起こる以前に阻止することはできない』ってことだったんだ。
 被害を最小限に食い止めたり、影ができる限り早く去っていくように祈ることはできる。でも、決まってしまう前の未来を変える力は、あたしにはないんだ。
 祈りの力が足りない。あたしには、災厄を阻止する力がない。未来を変える力も……。
  ―― 絶望してる暇なんかないよユーナ! だって、この村には祈りの巫女はあたししかいないんだから!
 不意に押し流されそうになる自分を何とか立て直して、あたしは髪を直すふりをしながら1回だけ髪飾りに触れて、顔を上げた。
「明日のことは明日考えるわ。今夜月がいちばん高くなる時、神殿で祈りを捧げればいいのね。その他にあたしがしなければならないことはあるの?」
「他のことは何も心配しなくていいわ。今夜のこの時間、あなたにできる限りの祈りを捧げてちょうだい。……これが本当の戦いの始まりなのよ。私たち人間の知恵と力、あなたの祈りと、災厄の力のどちらが強いか。私たちがどれだけ被害を最小限に食い止められるのか、今夜が最初の勝負になるのよ。できることならその時間まで身体を休めるといいわ。今日は疲れたでしょう?」
 そうか、昨日の災厄は日時を正確に予言できなかった。だから、今夜が初めての真っ向勝負になるんだ。
 タキを伴って、あたしは守りの長老の宿舎を出た。けっきょく最後まで守護の巫女以外誰も一言もしゃべらないままで、その雰囲気に巻き込まれたように、宿舎を出てからもタキは無言だった。たぶんタキには判らなかったんだろう。守護の巫女の話の中で、あたしがどうして絶望したのか。みんなが何をあたしに隠そうとしていたのか。
 でも、本当はあたしも判ってなかったんだ。みんながあの時、とうとう何も言わずにあたしに隠し通してしまったことがあることを。