真・祈りの巫女61
 宿舎の中に気まずい、なんともいえない空気が漂っていた。守護の巫女は笑顔だったけど、他の巫女や神官はまるで呼吸をしていないみたいに静かで、どうしていいのか判らないように互いに視線を交わしている。あたしとタキも無言で、守護の巫女が勧めてくれた椅子に腰掛ける。うっかり音を立てたら空気にひびが入りそう。そんな中で、守りの長老だけがいつもと同じ、無表情な中にも優しさを含んだ雰囲気を醸し出していた。
 なにか内緒の話をしていたのは間違いないみたいだった。それがあたしに関係あるのか、ないのか、それは判らないけど。
「さっき、祈りの巫女が神殿に入る前に、運命の巫女が未来を見たの。その中でいくつか判ったことがあるわ。まず、今夜あの影が再び襲ってくる正確な時刻が判ったの」
 あたしはただ黙って、守護の巫女が話す声を聞いていた。
「今日は7月14日、つまり満月よ。この満月がいちばん空高くなる時に影は村に襲ってくる。村の狩人たちには既に伝えてあって、この時刻には村全体を見張ってもらうことになってるの。ただ、残念ながらその『場所』はまだ判ってないわ」
 守護の巫女がそう言った瞬間、ほんの少しだけみんなの雰囲気が変わった気がした。
「村の人たちにも、できるだけこの時間帯には起きているように指示をしてあるわ。祈りの巫女、あなたも、この時間に合わせて神殿で祈りを捧げて欲しいの」
「……ええ、判ったわ。被害を最小限にとどめるように、影ができるだけ早く去っていくように祈ればいいのね」
「今回は家が壊されるだけじゃなくて、どうやら火災が起きるようなの。だから火災の被害も食い止めて欲しいわ。もちろん火を消し止める用意もしてあるけど」
 今まで、あたしが覚えている限り、村で火災が起きたのは1回だけだった。どこかの工房から火が出たんだけど、そのあたりは他にもいくつかの工房が立ち並んでいたから、けっこう被害が大きかったんだ。ふつう家と家の間はそれほど近くないけど、風にあおられればすぐに燃え移ってしまう。加えてそれが真夜中の火災だったら、現場の混乱は想像できないものになるだろう。
「それからもう1つ。……運命の巫女は、災厄が明日の夜も襲ってくる予言をしたの。明日の日没直後に」