真・祈りの巫女60
 神殿の前に来ていたのは、父さまと同じような村の職人たちで、ほかに荷物運びを手伝ってくれた人たちもいたからかなりごった返しているように見えた。みんな今夜のことを不安に思っていて、神官や巫女が通るたびに呼び止めていろいろ話を聞いているみたい。避難所の方にも布団が運ばれてきていて、避難してきた村の子供たちがはしゃぎながら大人のお手伝いをしている。めったに神殿にくる機会のない子供たちは、見るものすべてが珍しいらしくて、あちこち駆け回って笑い声を上げていた。無邪気な子供たちの様子は、そこだけまるで平和な風景を切り取って貼り付けたように見えて、緊張した空気をふっとやわらげてくれていたの。
「聖櫃の巫女はまだ戻ってないんだけど、さっき守護の巫女が守りの長老の宿舎に戻ってきたよ。オレはちょっとだけ顔を出してきたけど、影がどこに潜んでるかもまだ見つからなくて、現状にほとんど動きはないみたいだった。それから運命の巫女と神託の巫女が揃って長老宿舎へ入っていって、それきりまだ出てきてないんだ。よかったらオレ、もう1度行ってみるけど」
 タキは、あたしが祈りを捧げている間も、本当に忠実に役目を果たしてくれてるみたいだった。
「あたしも行くわ。運命の巫女の予言が気になってたところだったの」
「疲れてない? 災厄は今日だけじゃ終わらないんだから、今からあんまり無理をしない方がいいよ。そのためにオレがいるんだから」
「タキもよ。あんまり無理はしないで。これから先、あたしはタキがいなかったらものすごく困ってしまうんだから」
 けっきょく2人とも行くことになって、守りの長老宿舎の扉前まできたの。中からは話し声が聞こえていたんだけど、タキが扉をノックすると不意に静かになる。そのままタキが扉を開けて、中を覗きこんでちょっと驚いた。中には守りの長老、守護の巫女、運命の巫女、神託の巫女と、それぞれの巫女の担当になっている神官がいたのだけど、みんなびっくりしたようにあたしを見つめていたから。
「……祈りの巫女、祈りが終わったのね。お疲れ様」
 守護の巫女がそう言って作り笑いを浮かべる。まるで、内緒話を見つかって、それを必死でごまかそうとしているみたい。
「あの、……ごめんなさい。なにか大切な話の途中だったのね。また出直してくるわ」
 あたしが言うと、守護の巫女はふと姿勢を正して、今度は作り笑いじゃない本物の笑顔を見せて言った。
「いいえ、ちょうどよかったわ。祈りの巫女にも話しておかなければならないことだから」