真・祈りの巫女59
 もしかしたら、神殿で葬儀を行わなかった理由の中には、聖櫃の巫女があたしや運命の巫女の邪魔をしないようにという配慮もあったのかもしれない。だって、運命の巫女は既に5回も未来を見るために神殿を訪れて、あたしも今回で4度目だったから。タキが調べてきてくれた人の名前は20人を超えていたから、あたしはその1人1人について神様に祈りを捧げて、ライのことをもう1度祈って、最後に村の災厄が早く終わるように祈ったの。運命の巫女は既に今夜影が現われることを予言している。それを変えることはできないかもしれないけれど、それを最期にこの災厄を終わらせることはできるかもしれないから。
 人を癒す祈りは、祈ってすぐに効果が現われる訳じゃない。でも癒しの速さを増すことならできる。今の神様の気配は、自分自身を必死で励ますあたしの決意を映して、あたしに諦めるなと言ってくれているみたいだった。
 かなり長い時間を祈ることに費やしてしまったから、扉を出ると既に日が傾きかけていた。神殿前にはたくさんの村人たちが集まっているみたい。石段を降りていくと、あたしに気付いて人ごみの中からタキが駆け寄ってきたの。
「祈りの巫女、お疲れ様。さっきガラス職人のオキが山を降りていったところなんだ。確か祈りの巫女の父親だよね」
 あたしはちょっと驚いてしまった。父さまが神殿にきてたの?
「そうよ。でもどうして?」
「工房で作った品物を避難させにきたんだよ。少し待っててくれるように言ったんだけどね。仕事の邪魔をしちゃいけないからって、すぐに帰っていった。今からだともう追いつかないかな」
 タキの様子であたしは、タキがあたしと父さまをなんとか会わせようと力を尽くしてくれたことを知った。
「ありがとう、タキ。でもいいわ。父さまも仕事中だもの。本当にありがとう」
「いいの? だってこれからまたいつ会えるか判らないよ」
「父さまがあたしと会わないことに決めたんだもの。それでいいのよ。本当にありがとう、タキ」
「……オレがもうちょっと引き止められたらよかったんだけどな」
 タキはすごく残念そうで、あたしも残念に思ったけど、でもそれも仕事に厳しい父さまらしと思ったの。