真・祈りの巫女58
 タキと一緒に神殿に戻ると、扉の前にはまたセトが立っていたんだ。タキと書庫で話していた時間はそれほど長くなかったから、このわずかな間に運命の巫女がやってきたことになる。
「偶然ねセト。今日2回目だわ」
「いや、偶然でもないんだ。さっき祈りの巫女がここを出て行くのが見えたから、また運命の巫女が未来を見るって言ってね。今日だけで5回目だよ。さすがに心配だな」
「未来が見えないの?」
「家が影に襲われる場面は見えるらしいけど、場所がはっきり判らないんだ。祈りの巫女は? また村の人のことを祈りにきたのかい?」
「ええ、タキが被害に遭った人たちの家族の名前を調べてきてくれたの。それと、ライのことを」
「ライか。……運命の巫女にとっても他人事じゃないんだ。彼女の足も、子供の頃の怪我が原因だって聞いた」
 そういえば、運命の巫女もほんの少し足を引きずって歩く。運命の巫女もつらいことがたくさんあって、それを乗り越えてきた人なのかもしれない。
 それほど待つこともなくて、やがて運命の巫女は神殿から出てきた。運命の巫女は朝会ったときよりも更に憔悴して見えて、あたしもセトと同じように少し心配になってきたの。
「運命の巫女、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。心配は要らないわ。……セト、神託の巫女はどこにいるかしら。確かめたいことがあるの」
 運命の巫女はどこか上の空で、声をかけたのが誰なのかも判ってないみたいだった。
「たぶん、宿舎か書庫の方か……」
「書庫にはいなかったわ。あたしたち、今書庫から出てきたばかりだから」
「それじゃ宿舎の方かもしれないな。ありがとう祈りの巫女。……運命の巫女、段差に気をつけて」
 セトに支えられて石段を降りていく運命の巫女を見送りながら、あたしは彼女が見た未来のことが気になって仕方がなかった。