真・祈りの巫女56
 今回の災厄で死んだ人の中にも、子供が何人か混じってた。子供が死んで親が助かった家もあった。子供が死ぬのはすごく悲しいもの。もしも子供だけでも避難させられたら、親はどれだけ安心できるだろう。
「その避難所には何人くらい入れるの?」
「大人だと12、3人で、子供で20人くらいかな。今は村の西側にある家の子供たちを優先的に入れることになってるみたいだよ。でも明日からはたぶん、きこり以外の人たちも避難所作りを手伝ってくれるから、割と早いうちに村の子供たち全員避難できるようになるよ。まあ、守護の巫女が言ってたように、必ずしも神殿が安全な場所とは限らないけどね」
「……そうね」
 神殿が安全な場所だなんて保証はない。それに、村人全員が避難できる訳じゃないんだ。村の人たちにとっては、村は生活に必要な大切な場所。避難するだけではダメなんだ。影を追い払って、2度と村に近づかせないようにしなければならないんだ。
 あたしの祈りで、影を村から追い払うことができるのだろうか。
 それとも、リョウたち狩人が影を倒すことができる……?
「ねえ、タキ。村の人たちは影がどんな姿だって言ってた?」
 タキはちょっと不思議そうにあたしを見た。
「どんな、って。……守護の巫女が言ってた通りだよ。夜明け前だったから誰も姿は判らない。影のようなものしか見えなかったって」
「何かに似ていたとか、そういうのはない? 例えばムカデを大きくしたように見えたとか」
「いや、たぶんムカデには見えなかったと思う。なにしろ大きくて、そういえばどこが頭でどこが尻尾なのかがよく判らなかったようなことは言ってたよ。とにかく大きいとしか。……それがどうしたの?」
「あのね、その影を見た誰かに、影にふさわしい名前をつけて欲しいの。大きなムカデに見えたのなら大ムカデとか」
 タキはあたしがムカデをしつこく例に出す理由が判っていなかったんだろう。首をかしげる仕草をした。
「前にも言ったわよね。あたしが祈るためには、名前が必要なの。誰が見ても納得できるような名前か、影の本当の名前が」