真・祈りの巫女55
「祈りの巫女は残念に思うかもしれないけど、亡骸がもう普通じゃないから、会わないでいてあげた方がマイラにとってもいいことだと思うよ。それに……君は聖櫃の巫女じゃない、祈りの巫女なんだ。たとえ親しくしていた人の葬儀でも、こんな時に神殿を空けてまで参列するのは難しいよ」
 あたし、自分でも判っていたことだったけど、タキに言われて改めて自分の責任を思い知らされた気がした。あたしはショックだったけど、だからこそタキだってすごく言いづらかったはずなんだ。それなのにタキははっきり言ってくれた。リョウはタキにやきもちをやくけど、あたしはタキのような人も大切にしなければいけないんだ。
「ごめんなさい、タキ」
「いいよ。気持ちは判るから。今が非常事態だってことで、神殿の決まりもいろいろ変わってきてる。村でも今日は日常の仕事をしている人はあまりいなかったよ。食料や日用品を扱ってる人たちは荷造りを始めていて、たぶん今日の夕方には貯蔵庫に収めにくると思う。運命の巫女が今夜また影が襲ってくる予言をしたから、協力して壊れた家の廃材を集めて西の森の入口に囲いを作ってるんだ。あと、村のあちこちに見張りのやぐらを立てたりね。村のみんなも頑張ってるよ」
 そうか、災厄と戦ってるのは、神殿やリョウたち狩人だけじゃないんだ。村のみんなも自分ができることを精一杯やってる。あたしは独りじゃないんだ。それが判っただけでも、タキに村へ行ってもらってよかったと思ったの。
「それとさっき聞いたんだけど、広場の避難所はとりあえず今日中に1棟完成するらしいよ。これ、ベッドが作ってなくて、その代わりに床をしっかり作ってあるから、隙間なく布団を敷いてその上にみんなで寝るんだって。部屋がないらしいんだ」
 タキの言うことは不思議で、あたしにはぜんぜん想像がつかなかった。
「……部屋がないの? ベッドも?」
「そう。本当に寝るためだけの建物なんだって。建物1つが大きなベッドになる感じかな。オレにもあんまりよく判らないけど、誰かが昔の書物から図面を引っ張り出してきたらしい。布団が揃うのが今日の夕方で、でも今回家を失った人はみんな自分で行き先を決められたみたいだから、最初に入るのは村の子供たちになりそうだって言ってた。ひとまず子供だけ先に避難させておくつもりらしいよ」