真・祈りの巫女53
 あたしを見つめて、ふと何かに気がついたように、ライは泣き始めた。すごく大きな声を上げて、動かない身体を捩るようにしながら。理屈もなにもなく、あたしはライの心の動きが判ったような気がしたの。ライはしゃべれないから、もしかしたら違うのかもしれないけど、あたしには確かにライの気持ちが伝わってきたんだ。
 今まで、ライはずっと現実じゃないところにいたんだ。まわりは知らない大人ばかり。身体が痛くて、動くこともできなくて、そんなライをいつも助けてくれるマイラはどこにもいなくて。小さなライはきっと、夢と現実の区別がついていなかったんだと思う。悪夢を見て泣いていたら、マイラはそっとライを抱きしめて、悪夢の中から救ってあげていたのだろう。
 ライはあたしの顔を見て、これが現実だってことを知ったんだ。いつもライの現実の中にいたあたしがここにいたから。それと同時に、いつも助けてくれるマイラやベイクが、既にライの傍にはいないんだってことが判ったの。もう2度と現われることがないんだって。だって、こんな現実に放り出したまま、2人がどこかに行ってしまうなんてこと、ライは今まで経験したことがなかったんだから。
 小さなライを抱きしめてあげたかった。だけど、全身包帯だらけのライはあまりに痛々しくて、触れたら壊してしまいそうで、あたしにはどうすることもできなかった。
「これだから、子供は侮れないだろう? まだ大人みたいに自分をごまかすことを知らないからね。衝撃がぜんぶそのまま傷になっちまう。……でも、大丈夫だよ。この子は強くならなければ生きられない子だから、ちゃんと乗り越えられるから」
 そう言ったローグにも、あたしが感じたライの心の動きは伝わっていたみたいだった。
「強くなければ、生きられない子……?」
「そう。神様がたくさんの試練を与える子は、生まれながらにしてそれを乗り越える力を持ってるんだ。ライは強くなるよ。……祈りの巫女、君もね」
 神様は、乗り越えられない試練を与えたりはしない。それは、昔リョウがあたしに言ってくれた言葉でもあったんだ。
「ライは必ず歩けるようになるわ。お願い、ローグもそう信じていて」
 ローグの微笑みに見送られながらあたしはライの病室を出て、廊下で誰にも気付かれないように、そっと髪飾りに触れた。