真・祈りの巫女52
 マイラの家は影に壊されて、そのあと影がマイラの家を乗り越えたんだって、あたしは守護の巫女に聞いた。リョウは足跡を見て、影はものすごく体重が重いって言ってた。ふつうのベッドは底があいた箱のようなもので、女性1人の力じゃぜったい動かせないくらいしっかり作ってある。だから影の重さでも完全には壊れなかったんだ。マイラはそれを1人で持ち上げて、ライをその下に隠したの……?
「祈りの巫女、人間はいざとなると、普段では想像もできないようなことをやり遂げることができるんだ。こういうのを奇跡というんだろうね。マイラはライに、母親として精一杯の事をしたと思うよ。だから、あとはライが自分の力で乗り越えていかなければならないんだ」
 あたしはもう何も言えなくて、ローグの淡々とした声を聞いているだけだった。
「あんな小さな子には酷な話だね。……祈りの巫女、このままライに会わずに帰ったとしても、だれも君を責めたりしないよ」
 ローグには、あたしの心が震えていることが判ったのだろう。ここにくるまであたしは何も考えてなかった。ただ、あの小さなライに会いたいって、それだけだった。痛みを堪えるライを少しでも慰められたら、って……。あたしには、ライの痛みなんてぜんぜん判らないのに。
 ライは一生歩けないかもしれない。ライにそんな苦しみを与えたのは、ライを産み出したあたしなんだ。マイラは母親として精一杯のことをライにしてあげた。あたしだって、ライにできる限りのことをしてあげなければいけないよ。
 あたしがライにできるのは、ライのために祈ることだけ。
「ローグ、部屋に入っても平気?」
 ローグはにっこり笑ってあたしを部屋へ導いてくれた。
  ―― ベッドの上のライは痛み止めで少し落ち着いたみたい。目尻に涙の名残は浮かべていたけれど、もう声を上げてはいなかった。視線を泳がせていたライに近づいて覗き込むと、ライはあたしを見つけたみたい。しばらくじっと見つめていて、やがて静かに目を見開いていく。あたしはなんとか微笑みを浮かべることができて……。
 その時、ライは再び目に涙を滲ませて、まるで火がついたように大きな声で泣き始めたの。