真・祈りの巫女51
 神官のローグはもう壮年と言っていい年齢だったけど、なぜか独身のままで、ずっとこの共同宿舎に住んでいる。怪我や病気のことにすごく詳しかったから、神殿のみんなに頼りにされてるんだ。でも、ローグ自身もあまり身体が強い方じゃないらしくて、山道を降りることは無理みたい。ずっと結婚しないでいたのもそんな理由があったからなのかもしれない。
 ライの治療を終えたローグは、あたしを部屋から廊下へ連れ出していた。
「ライはどうなの? あたしが会っちゃいけないくらいひどいの?」
 たぶん、村にも怪我を治療できる神官は降りてるはずなんだ。それなのにライがローグのところに運ばれてきたってことは、きっと下では治療できないくらい、ひどい怪我だってことだから。
 そんなあたしを安心させるように、ローグはにっこり笑ったの。
「大丈夫だよ、祈りの巫女。命に別状はないから会うこともできる。ただ……怪我の状態についてはまだ本人に聞かれたくなくてね」
「本人に、って……。ライはまだ話ができないのよ」
「子供は大人の話を理解できるよ。あんまり甘く見ないことだ。 ―― リド、痛み止めの量は大人の4分の1だからね」
 ちょうど薬を持って通りかかったリドにそう伝えて、ローグはまたあたしに向き直った。
「全身の擦り傷はたいしたことなくて、内臓にも異常はない。ただ、右足がひどい。ベッドの下敷きになったらしくて骨が砕けてるんだ。このままだと一生自分の足で立って歩くことは難しいな」
 ローグの口調はそれまでとほとんど変わらなくて、言われた言葉の内容とのギャップがありすぎて、あたしはすぐに理解することができなかった。
「……ベッドの下敷き……?」
「これは聞いてなかったかな。ライは寝室のベッドの下にいたんだよ。もちろん自分で入り込んだ訳がないから、おそらく異変を感じたマイラがとっさにベッドを持ち上げて、その下にライを放り込んだんだ。本能的な行動だったんだろうな。家は影に踏み潰されてしまって、完全に崩れ落ちたけど、ベッドの下にだけはわずかな空間があったんだ。だからライは助かったんだよ」