真・祈りの巫女46
「その足跡の1つ1つもけっこう深く掘り込まれてるから、体重はかなり重い獣だ。オレは大きなムカデみたいな生き物を連想したけど、目撃した人の話だとムカデよりずっと背が高くて、身体もムカデほど長くない。すごく大きな唸り声を上げて、通ったあとに変な匂いが残ってたらしいよ。オレが行ったときにはその匂いはなくなってたけどね」
 リョウは手振りを交えてそう話してくれたのだけど、あたしにはその足跡すら想像することができなかった。
「今までそんな足跡を村の周りで見たことはなかったんでしょう? その獣はいったいどこから来たの?」
「足跡は西の森から現われて西の森に消えてる。沼のあたりで途切れてるから、最初は沼から出てきたのかと思ったんだ。だけど、それだけ大きな獣が沼から出てきたとしたらあたりが沼の水で濡れるはずなのに、下草は踏み潰されてるけどぜんぜん濡れてないんだ。まるで空中から現われて空中へ消えたみたいに。そんな重い獣が羽を持って空を飛ぶとは思えないから不思議なんだけど」
 守護の巫女の話を聞いたときにも思ったけど、今回現われた獣は、あたしたちの常識からものすごくかけ離れた生き物みたい。守護の巫女が影と言ったのも判る気がするよ。本当に、影みたいに現われて、影みたいにいなくなっちゃったんだ。
「リョウ、影は今夜もう1度現われるの。さっき運命の巫女がそう予言したのを聞いたわ」
「オレも聞いたよ。場所は判らないみたいだから、今夜は狩人が村のあちこちに散らばって見張りをすることになってるんだ。影が現われたら村の人を家から遠ざければ、家をつぶされても命を助けることはできるからね」
 そう、か。影は人を襲わなかったから、家から離れさえすれば命だけは助かるもの。
 リョウが意外に落ち着いて見えるのは、そうやってちゃんと次の手段を考えていたからなんだ。
「それからね、ユーナ。……オレは朝のうちにオキに会ってきたよ」
「父さまに?」
 リョウはちょっとだけ言いづらそうに表情を硬くした。
「今夜は約束を守れなさそうだから、そのお詫びにね。……オキは、ユーナのことを頼む、ってオレに言ってた。ユーナには、家のことは心配しないで、村のことを1番に考えなさい、って」