真・祈りの巫女42
 カーヤに促されて宿舎の扉を開けると、テーブルの椅子に腰掛けていたリョウが振り返った。立ち上がったリョウはあたしに微笑みかけてくれる。その顔を見ただけで、あたしはなんだか胸がいっぱいになって、カーヤがそのまま出て行ってしまったことにも気がつかないくらいだったの。
「ユーナ……」
 リョウが広げた腕に飛び込んで、胸に顔をうずめて、あたしは込み上げてくる涙を抑えることができなくなっていった。優しく抱きしめてくれるリョウの腕に、今まで硬く閉ざしていた感情が溶かされていくみたい。自分でも訳が判らなくなるくらい泣きじゃくった。祈りの巫女の責任も、恥ずかしさも、何もかも忘れてリョウにすがりついていたの。
「マイラ……リョウ、マイラが……」
「ああ、判ってる」
「どうして……? だって、すごく、幸せだったのよ。昨日はあんなに幸せで……」
「ユーナ、……ユーナ!」
 リョウはずっとあたしを抱きしめていて、名前を呼びながら背中をなでてくれる。それだけであたしは安心して、まるで子供のように手放しで泣くことができたの。だって、あたしはマイラのために泣きたかったんだもん。ずっと我慢しながら笑ってた。そうしていなかったら、あたしは悲しみに押しつぶされてしまいそうだったから。
 今、リョウがここにいなかったら、あたしは泣けなかった。ただのユーナに戻れなかった。リョウ、今だけでいいから傍にいて。この扉を出たら、あたしはまた必ず祈りの巫女に戻るから。
「……リョウ、ごめんなさい」
 小さく呟いて顔を上げると、リョウはそっと近づいて、頬の涙にキスをした。
「オレが傍にいるときは我慢しなくていいよ。ここにいるユーナは祈りの巫女じゃない。たった1人、オレが愛する女だ」
 リョウの言葉を聞いて、あたしはまた再び涙が込み上げてきていた。