真・祈りの巫女41
 再び祈りを終えて神殿を出ると、山の陰になっていた神殿の敷地にも日が差し始めていた。神殿前広場で小屋を作っていた人たちも今は休憩していて、石段を下りてよく見ると食事をしているのが判った。それで気がついたの。あたし、日の出の頃に起きて朝から2度も祈りを捧げているのに、まだ朝食すら食べてなかったんだ。
「祈りの巫女、神様にお祈りするのは終わったのかい?」
 休憩していたきこりの1人に声をかけられて、あたしはそちらに顔を向けた。まだ若そうなきこりの声はあたしをからかっているみたい。たぶん、あたしが神様に祈って願いを聞き届けてもらえるって、信じてないんだ。村に降りるとそういうからかいの声は時々聞くことができたから、あたしはすっかり慣らされていた。
「ええ。村の災厄が1日も早く過ぎ去ってくれることを祈っていたの。みんなも困ったことがあったらなんでも言ってちょうだいね」
「オレはこのところ嫁さんがガミガミうるさくて困ってんだ。それも祈りの巫女が祈ったらおとなしくなるのか?」
「なると思うわ。今は忙しくて村へ行けないけど、事がぜんぶおさまったらまた山を降りるから、その時にゆっくり話を聞かせて」
 そう言ってあたしがにっこり笑うと、若いきこりはちょっと拍子抜けしてしまったみたい。他のきこりが口を挟んでくる。
「祈りの巫女、朝飯がまだなんだろう? さっきから若い巫女がしょっちゅう神殿を覗きにきてるよ」
「そうそう、何ていったかなあの娘は。まだ独り身ならぜひ弟の嫁にしてやりたいんだが」
「さすがにあの年頃じゃもう決まった男がいるだろ? さっき一緒にあの宿舎に入っていったぜ。……お、噂をすれば」
 きこりが指差した祈りの巫女の宿舎を見たら、ドアからカーヤが出てくるのが見えたの。あたしはちょっと驚いたけど、きこりのみんなにお礼を言って作業場を離れると、カーヤもすぐにあたしに気がついて近寄ってきた。
「ユーナ、お疲れ様。お腹が空いたでしょう? 食事の用意はできてるわ。宿舎に来て」
「ありがとう。……でも、いいの? 中で恋人と過ごしていたんでしょう?」
 あたしが気を遣って言うと、カーヤは一瞬だけ意味が判らないみたいに視線を泳がせた。
「なに言ってるのよ。中にいるのはリョウよ。ユーナの祈りが終わるまで引き止めるのたいへんだったんだから」