真・祈りの巫女40
「あたしが人の寿命を延ばそうとするなら、命をかけなければならないのね」
 祈りの巫女が命をかけなければ、人の寿命を変えることはできない。運命の巫女の言葉は絶望のようにあたしには聞こえた。
「祈りの巫女、私が言いたかったのはまったく逆のことなの。祈りの巫女がどんなに命がけで祈ったとしても、人の寿命を変えることは難しいわ。むしろ、あなたには別のことを祈って欲しい。……例えばライのこと」
「……ライの……?」
「ええ。ライは命だけは救われたけど、かなり大きな怪我をしていると聞いたわ。詳しい様子は判らないけれど、きっと小さな身体で痛みに耐えて、苦しんでいると思うの。その苦しみを和らげて、少しでも早く怪我を治してあげて欲しい。祈りの巫女の祈りは、命が助かった人にこそ必要なのよ」
 運命の巫女に言われて初めて気がついた。そうよ、ライは今でも痛みに苦しんでるんだ。両親を失って、見知らぬ人たちに囲まれて、ライはきっと心細い思いをしてる。そんな心の傷を癒してあげることだって必要なんだ。あたしには、祈ることでライの心と身体の傷を癒すことができるんだから。
「運命の巫女ありがとう。あなたが話してくれなかったら、あたしはライの事を祈るのを忘れてしまったかもしれないわ。タキ、あたしはこれから神様に祈りを捧げるけど、その間に怪我をした人の名前を調べて。それと、大切な人を失って悲しんでいる人のことも。たいへんだと思うけどお願い、タキ」
 タキは少し呆然としてあたしを見つめていたけれど、あたしの熱意が伝わったのか、ちょっとだけ笑顔を見せた。
「判ったよ。村まで行くからちょっと時間がかかるかもしれないけど、午後には戻ってこられると思う。祈りの巫女は神殿か宿舎にいてくれる?」
「たぶんそのどちらかにいるわ。万が一神殿を離れる時には必ず守護の巫女に伝えていくようにする」
「オレがいなくなっても無理はしないで、できれば少し宿舎で眠っておくといいよ。どうやら明日もたいへんなことになりそうだから」
 そう言って手を振りながら石段を降りていくタキを見送って、運命の巫女にもう1度お礼を言って、あたしは再び神殿の扉を開けた。