真・祈りの巫女39
 やがて神殿の扉を開けて運命の巫女が出てきた時、あたしとタキとセトは思わず食い入るように運命の巫女を見つめてしまった。運命の巫女はちょっと驚いたみたい。でも、あたしたちが待っていた理由はすぐに判ったようで、1つうなずき返して話し始めたの。
「影は今夜また現われるわ。時刻は今回よりも少し早いくらいかもしれない。ただ……場所がはっきり特定できないの。午後になったらもう1度見てみるわ」
 今夜また影が現われる。その予言に、あたしは足が震えてくるのが判った。
「影はまた同じように家を崩していくの?」
「ええ、多くの家が壊される情景が見えたわ。そしてまた何人かの人が犠牲になる」
 目を伏せて悲しみに耐えるようにそう言った運命の巫女は、いつもよりもずっと小さく見えた。あたしの祈りは寿命が尽きた人をまだ1人も救えていない。たとえたった1人でも救うことができたら、運命の巫女の絶望も少しは和らげることができるのに。
 まだ見つかっていない3人のことを早く祈りたくて、運命の巫女の脇をすり抜けようとした時、運命の巫女はあたしを呼び止めたんだ。
「祈りの巫女、建物の下にいる人たちのことを祈るの?」
「ええ。今祈ればまだ間に合うかもしれないもの」
「聞いて、祈りの巫女。……過去の祈りの巫女も、その何人かは人の寿命を変えようと祈りを捧げたわ。このことはたぶん、祈りの巫女の物語にはないはずだけど」
 運命の巫女の言う通り、祈りの巫女の物語には、人の寿命に関する祈りの記述はなかった。
「祈りの巫女は人の寿命を知らないから、その祈りが寿命を変える祈りだったことには気が付かなかったのね。私は予言の巫女の物語を読んでいるから、人の寿命と祈りの関係についても知ってる。……私が読んだ物語では、祈りの巫女はたった1度しか人の寿命を伸ばしたことはないわ。この1500年の間、たった1度だけよ」
 過去11人いた祈りの巫女。その中で、人の寿命を変えられた巫女はたった1人しかいなかったの……?
「2代目祈りの巫女セーラ。彼女だけが、恋人ジムの命を助けることができたの。……自分の命と引き換えるように」