真・祈りの巫女38
 守りの長老の宿舎を出たあと、あたしはタキを伴って、再び神殿に向かった。その道々でタキが話し掛けてくる。
「祈りの巫女、今日は実家に行く予定だったの?」
「ええ。……でも、村の有事の時には巫女が神殿を離れられないのはみんな知ってることだもの」
「異変がこれで終わる可能性はないのかな。だって影は見つからないんだろう? もう村の近くにはいなくて、これから先2度と現われないかもしれないよ」
 あたしが返事をしなかったのは、村の異変がこれで終わるなんてぜんぜん思えなかったから。あたしだってタキの言うとおりだったらどれほど嬉しいか判らないよ。たぶん、村の巫女たちはみんな感じてる。これが始まりで、これから先もっと悲惨な運命が村を襲うことになるんだ、って。
 あいまいにタキにごまかして、神殿前の石段を登ると、扉の前には神官のセトが立っていた。
「祈りの巫女、神殿に祈りに来たの?」
「ええ。中に誰かいるの?」
「オレは運命の巫女を担当してるから、祈りの巫女も覚えておいて。今中で村の運命を見ているところだよ」
 さっき、運命の巫女はあたしが守りの長老を訪れたとほぼ同時に宿舎を出て行った。そうか、たぶん運命の巫女は、あたしの祈りが終わるのを長老の宿舎で待っていたんだ。
 運命の巫女の予言はあたしも気になったから、それからしばらくの間、扉の前で運命の巫女が出てくるのを待つことにした。
「ここから見ても、村の様子は判らないね。神殿の屋根に登れば見えるかな」
 セトの言葉であたしも村の方を振り返ってみる。目に入るのは森ばかりで、たとえ屋根に登ったとしても村が見えるとは思えなかった。
「セトの家は確か村の東寄りだったよな。今回影が現われたのは西の方だし、そんなに心配することはないと思うよ」
「このあと影がどこから現われるかなんて判らないだろ? ……タキ、おまえも家族を持てばオレの気持ちが判るよ」
 2人のやり取りを聞きながら、あたしは村の人たちがセトと同じくらい不安に思ってるだろうことを感じていた。