真・祈りの巫女37
 以前、あたしはタキに言われたことがあった。祈りの巫女は人々の幸せを祈るけれど、祈りの巫女の幸せを祈る人はいない、って。その時あたしはショックで、でも2代目祈りの巫女のセーラの物語を読んで、セーラの日記を読んで判ったの。人は自分に与えられた大切な役目を全うしないうちは、ぜったいに幸せにはなれないんだ、って。
 この祈りであたしは多くの幸運を失うかもしれない。だけど、もしも今村の人たちのために祈らなかったら、これから先たとえ多くの幸運が訪れたとしても、あたしは自分を許すことができないだろう。あたしはセーラのように死んでしまうのかもしれない。それでも、祈ることをしないで生き延びるより、ずっと正しいことなんだ。
「守りの長老、心配してくれてありがとう。でも、祈ることがあたし、祈りの巫女の役目なの。あたしが祈ることでガロンとシュキとテサを救えたらあたしも幸せだわ。……守護の巫女、あたしはこれから家の下敷きになっている人のことと、村の災厄を退けるための祈りをする。それ以外にあたしがしなければならないことはある?」
 守護の巫女は、あたしと守りの長老のやり取りに、かなり驚いたみたいだった。当然かもしれない。あたしが祈りの巫女になる前にはこの村には120年も祈りの巫女がいなくて、祈りの巫女がどんな巫女なのか、誰も知らなかったのだから。
「そうね……今のところはそれで十分よ。これから先、必要なことが出てきたら、タキを通じてあなたに知らせることにするわ。……タキ、あなたは私と祈りの巫女の連絡役として、常に所在を明らかにしておいてちょうだい。たいへんだろうとは思うけど」
「判ってる。守護の巫女、祈りの巫女のことはオレに任せてくれ。そのくらいの覚悟がなかったら最初から志願したりしないよ」
 タキはあたしの連絡役に、自分から名乗り出てくれてたんだ。小さなことだったけど、あたしはそのことをすごく嬉しく思った。
「祈りの巫女、あなたも所在は必ずタキに知らせておいてね。……今日は実家に帰る予定だったようだけど、それはキャンセルしてちょうだいね。せっかくリョウとの結婚の話がまとまるところで残念だったと思うけど」
 あたしはまたチラッとリョウのことが頭をかすめたけど、それについては考えないようにしようと思った。
「こんな大きな出来事が起こったんだもの。リョウもあたしの両親もちゃんと判ってくれていると思うわ。心配してくれてありがとう」
 あたしはちょっとだけ苦笑いを浮かべて、タキと一緒に守りの長老の宿舎を出た。