真・祈りの巫女36
 祈る時、祈りの巫女はその人を特定するために名前を使う。なぜなら、人の名前は一生変わらなくて、その人の過去も未来もぜんぶ表わしているものだから。例えば他の村の人が来て、その人の娘の病気を治すために祈りを捧げて欲しいと言ったとしても、名前さえ教えてもらえばあたしは祈ることができるの。娘さんの姿かたち、病気の種類や様子を知らなくても、どこの村のなんという名前の人だと教えてもらいさえすれば、祈りを神様に届けることができるんだ。
 今、村の戸籍にはルールがあって、生まれた子供に現在生きている人と同じ名前は付けてはいけないことになっている。だから、名前さえ判ればその人を特定することができるの。そんな祈りの巫女の祈りの特性を、あたしは他のぜんぶの人たちに早く教えておかなければならなかった。
「そうか。それでさっきオレに名前を聞いたんだね」
 今までずっと黙ったままだったタキが言って、その言葉を引き継ぐように守護の巫女も口を開いた。
「判ったわ、祈りの巫女。これから情報を集める時には必ず人の名前も報告するように、みんなに申し伝えるわ。タキ、あなたも、祈りの巫女に必ず名前が伝わるように気をつけてちょうだいね」
「了解。任せてくれ」
「祈りの巫女ユーナよ、未だ家の下敷きになっている3人は、ガロン、シュキ、テサ。ただし3人とも定命は尽きておる」
 突然、守りの長老が重い口を開いたから、あたしたちは驚いてしまった。
「守りの長老! 人の寿命は祈りの巫女にさえ軽々しく明かしてはいけないはず。……いいえ、それよりどうして名前を知っているの?」
 守護の巫女の言葉で、あたしは彼女がその人たちの名前を把握していなかったことを知った。
「ずっとここに座っていたからな。影につぶされた家と、死んだ者の名前を知ればおのずと判ろう。祈りの巫女ユーナ、この3人のために再び祈るか」
 あたしがうなずくと、守りの長老は重々しい口調で言った。
「祈りは、自らが神より与えられた幸運を他者に分け与えることと心得よ。……むろん祈りの巫女でさえも例外ではない」