真・祈りの巫女33
 神殿から出ると、カーヤはあたしに別れを告げてどこかへ去っていった。あたしが祈っている間に神殿は秩序を取り戻していた。相変わらずざわざわしてはいたけれど、神官も巫女も無目的に動き回ったり、感情もあらわに泣き崩れていたりはしなかった。ひとりひとりが目的を持ってきびきび動いて、この突然の災厄にできる限りの力を尽くそうと必死になっている。神殿前の広場では、小屋を建てる目的を悟ったきこりたちが、一瞬でも早く小屋を完成させようと躍起になっているみたいだった。
 タキは守りの長老の宿舎入口に立つとドアをノックして、中からの返事は待たずにドアを開けた。中にいたのは守りの長老と守護の巫女、そして運命の巫女と、幾人かの神官たちだった。守護の巫女と神官の1人は、あたしが入ってきたことには気付いていないように会話を続けている。緊急事態だったから、あたしも礼儀は無視して、空いている椅子に腰掛けた。
「 ―― 狩人たちにはくれぐれも深追いしないように伝えてちょうだい。もしも影の本体を見つけてもぜったいに近づいてはいけないわ。必ず複数で見張りをして、ときどき神殿に報告を入れて欲しいの。今必要なのは影を退治することじゃなくて影の情報なんだ、って、必ず伝えて」
「ああ判った。狩人の様子はオレたちが交代で定期的に報告にくることにする。オレは昼までに1度戻ってくるよ」
「お願いね」
 守護の巫女にうなずき返して神官の数人が宿舎を出て行くと、守護の巫女はやっとあたしに気付いたように微笑んだ。
「待たせたわね、祈りの巫女、タキ」
「あたしの方こそごめんなさい。ずっと神殿で祈ってたら遅くなっちゃって」
「いいのよ。祈りの巫女のおかげでライの命が助かったんだもの。これから先も祈りの巫女はできるだけ祈りに専念して欲しいわ」
 そう言って力強く微笑みかける守護の巫女はいつにも増して堂々としていて、あたしはそんな彼女をとても頼もしく思った。
「祈りの巫女、もうタキに聞いているかもしれないけど、これから先はタキが様々な情報や指示をあなたに伝えるわ。あなたはタキと連携して、今回の災厄に対処してちょうだい。 ―― まずは現状を簡単に説明するわね」