真・祈りの巫女32
 もう少し早く神託の巫女がマイラの死を教えてくれていたら、あたしはマイラを救えたかもしれない。でも、祈りの巫女が自分のことを祈っちゃいけないように、神託の巫女も人の寿命を直接他人に話すことはできない。2年前、ライが生まれた時に神託の巫女はちゃんとヒントをくれていたのに、あたしは察することができなかった。マイラはもう生き返らないけれど、これから死ぬ人を1人でも少なくすることならできるはずなんだ。
 悲しむことも、後悔することも、あとからだってできる。タキが崩れた家の下敷きになっている人の名前を教えてくれたから、あたしはすぐに神殿に駆け込んで祈りを捧げたの。ひとりひとり、心の中で名前を呼びながら、神様に無事を祈る。自分でも不思議に思うくらい祈ることに没頭して、やがて祈りを終えて振り返ったら、うしろにはカーヤのほかにタキも見守ってくれていたんだ。
「祈りの巫女、終わったの?」
 あたしはまだちょっとだけ現実に焦点が合っていなかったから、カーヤの問いかけにはうなずくことで答えた。
「あれからまたいくつか情報が入ってきてるわ。ライが無事に助け出されたのよ」
 そう言ったカーヤの表情には悲しみが多く混じっていたから、ライの無事だけを素直に喜んでいられないんだって察することができた。
「……死んじゃった人もいるのね」
「ええ。……あれから更に6人が見つかって、ライ以外はみんな亡くなってたわ。でもまだ希望はある」
 あたしが2人に近づいて、力を落としたカーヤの肩に触れた時、隣にいたタキがあたしに話し掛けてきた。
「祈りの巫女、守りの長老が呼んでるんだ。宿舎へ行くことはできる?」
 祈りにはいくつかの手順があって、長時間同じことを祈ったからといって必ずしも効果がある訳じゃないんだ。あたしがうなずくと、タキは先に立って神殿の扉を開けてくれる。
「君が祈っている間にいろいろなことが判って、神殿の体制も徐々に整いつつあるんだ。詳しいことは守りの長老や守護の巫女から説明があると思うけど。オレは祈りの巫女の補佐をするように言われたから、これからしばらくは君のそばにいるよ」
 そんなタキの言葉は、あたしにはとても心強く響いた。