真・祈りの巫女31
「祈りの巫女!」
 あたしの肩に乗せた手に力を入れてゆすりながらカーヤが元気付けるように言う。死者のために祈るのはあたしじゃなくて神託の巫女の役目なんだ。祈りの巫女の祈りは、今生きている人たちが幸せになるための祈り。あたしのマイラのための祈りはもう終わったんだ。
  ―― マイラ、あなたは幸せだったよね。こんなに若くて死んでしまったけれど、ライを産んで育てたことで、ライがいなかった時よりもずっと幸せになれたんだよね。あたしの祈りは無駄じゃなかったんだよね。
 そう思わなければ耐えられなかった。そうやって無理矢理にでも自分を納得させなかったら、あたしの心は突然のマイラの死に押しつぶされてしまいそうだったから。
「ありがとうカーヤ。……タキ、まだ家の下敷きになってるのは誰と誰? 名前を教えて?」
「オレには判らないや。ちょっと待って。今すぐ訊いてくる。少しだけ待っててくれ」
 タキが人だかりの方に駆けていくのと入れ違いに、気力を振り絞って神託の巫女がやってきた。
「祈りの巫女、さっきはごめんなさい。私、取り乱して……」
 まだ目を赤くしていたけれど、神託の巫女はいつもの気丈さを取り戻していた。
「神託の巫女が辛かったのは判ってるわ。……ずっとあたしには黙っていたけど、マイラが死ぬことを知っていたのでしょう?」
「ええ、ライの誕生の予言をした時に、ライが両親のいない子になるということが判ったの。戸籍に残ってるマイラの誕生の予言にもこの死は書かれていたわ。……でも、祈りの巫女の祈りはもしかしたら未来を変えるかもしれないって、私はそう思ってたのよ」
 神託の巫女の必死の思いを感じて、あたしは心臓の高鳴りを意識した。
「……あたしは、未来を変えられるの……?」
「祈りの巫女は既に人の運命を変えているのよ。マイラが2人目の子供を産むなんて、マイラやベイクの誕生の予言にはなかったのだから。ライはね、祈りの巫女、あなたが祈りで運命を変えた結果生まれた子供なの。あなたの祈りは常に人の運命を変え続けているのよ」
 祈りが人の運命を変えることができる。あたしは、これから死ぬ人を生き延びさせることができるかもしれないんだ。