真・祈りの巫女30
 心が凍りついたように何も考えられなくて、あたしはマイラの死を伝えた1人が、周りに集まる人たちに詳しい様子をしゃべっているのを呆然と見つめていた。マイラ、昨日は何ごともなく元気で、ライを抱いて幸せに笑っていた。あれからまだ丸1日も経ってないのにどうして信じられるの? ライが生まれて本当に幸せなんだ、って、あんなに素敵な笑顔を見せてくれたマイラがもうこの世にいないだなんて。
 あたしは祈りの巫女になったあの時、マイラを幸せにしたいと思った。マイラを幸せにするために祈りの巫女になるんだって。そのためにあたしは修行して、たくさんの時間をマイラのために費やした。そうしてやっとの思いで得た幸せは、こんなに簡単に消えてしまうものだったの? 人の命はこんなに簡単に消えてしまうものなの……?
「ユーナ……」
 あたしの肩に遠慮がちに手を置いて、カーヤがうしろから声をかけてくれる。あたしにはまだそんなカーヤに振り返るだけの余裕すらもなくて、カーヤもあたしにかける言葉を失ったようにそれきり声にならなかった。そんなあたしの様子に気づいて近づいてきた人がいた。人が立つ気配に顔を上げると、目の前には悲しみと戸惑いの表情を浮かべた神官のタキが立っていたんだ。
「祈りの巫女、西の外れに住むベイクとマイラが死んだそうだよ」
 そんなタキの言葉に、あたしはうまく反応できなかった。見上げたままのあたしにタキは言葉を続けた。
「君はマイラと懇意にしていたと聞いた。オレも君になんて言ったらいいのか判らないよ。とにかく残念だとしか言いようがない」
「……」
「今聞いた話だと、マイラたちの家は何か大きな力でつぶされてしまって、一家全員がその下敷きになったみたいなんだ。マイラとベイクは寝室のあたりで見つかったけど、子供のライがまだ見つかってない。今救助にあたってくれている近所の人の中に、瓦礫の下で子供が泣く声を聞いた人がいるらしいんだ。祈りの巫女、マイラとベイクは死んだけど、もしかしたらライはまだ生きてるかもしれない」
 タキのその言葉に、あたしはかすかな希望の光を見たような気がした。
「一刻を争うんだ。ライと、チャクやそのほかのまだつぶれた家の下敷きになってる人たちのために、君の祈りを捧げてくれないか?」