真・祈りの巫女28
 この日の夜、あたしはあまりよく眠れなかった。
 明日はリョウがあたしの家に来てくれて、いよいよ2人の結婚が現実になるから、それで少し興奮してたのかもしれない。神殿の夜は麓よりも涼しいのに、背中に寝汗をかいてしまって何度も寝返りを打っていた。身体は眠りを求めてるのに、心臓がドキドキしたままでぜんぜん眠れる気がしなかったの。
 けっきょくほとんど眠らない状態で日の出を迎えてしまっていた。カーヤを起こしたくないからしばらくはベッドの中にいたけれど、そのうちいつになく神殿の周りが騒がしくなってきたからあたしも身体を起こした。それとほとんど同時だった。宿舎のドアを誰かがノックしたのは。
「祈りの巫女、祈りの巫女起きて! 緊急事態よ。大変なことが起こったの」
 続けて何度も叩かれたドアの音でカーヤも起きてしまったみたい。あたしがベッドを抜け出してドアを開けるとカーヤも飛び出してくる。ドアの向こうに立っていたのは神託の巫女だった。今まで見たこともないような真っ青な顔をしてあたしを見つめていたんだ。
 その一瞬、あたしは心臓が飛び出すかと思った。神託の巫女の表情だけで判ってしまったから。いずれ村を襲うはずの災厄が、こんなに早く現実になってしまったこと。
「何があったの?」
 あたしのその言葉を待っていたかのように神託の巫女はまくし立て始めた。
「村の西側で異変が起きたわ。夜明け前にものすごく大きな音がして飛び出してきた近所の何人かが大きな影を見たの。影の正体は判らない。でもいくつかの家がつぶされたわ」
 村の西側って、昨日あたしあのあたりへ行ったよ! 西の外れにはシュウの森。そして、その手前にはマイラとベイクとライが住んでいる家があるんだ。
「夜明け前って……。家がつぶされたって、いったい何があったの? つぶされたのは家だけなの? 家の中にいた人は無事なの?」
 あたしの立て続けの質問攻めに、神託の巫女は傍から見てはっきりと判るくらい、恐怖で身体をガタガタと震わせた。