真・祈りの巫女23
 あたしはずっと神殿で暮らしていたから、少し忘れていたのかもしれない。神殿やそこで働く巫女たちが、ほかの人たちには特別に見られてるってこと。あたしはこのところ悩んでいる人たちの話を訊いてきたけど、悩んでない人にとっては、祈りの巫女はほんとになじみのない職業なんだ。実の弟ですらこうなんだもん。あたしはもっともっと、祈りの巫女のことを村の人たちに教えていかなければならないんだ。
 そんなことを考えているうちにいつの間にかマティの酒場まで来てしまっていた。入口から覗くとリョウの背中が見える。父さまやオミと話しているうちに約束の時間が少し過ぎちゃったみたいね。マティがあたしとオミに気づいて、ちょっとあれって表情をした時、オミはかまわず入口をくぐって店の中に入っていったの。
「いらっしゃい、オミ、ユーナ」
「こんにちわマティ。リョウ、久しぶり」
「あれ? ……オミ? ずいぶん大きくなったな」
「いつまでも子供みたいに言うなよ。オレもう13なんだぞ」
 リョウと話しながらオミはちゃっかりリョウの隣に座ってしまったから、あたしはマティに挨拶したあと、しかたなくオミの隣に腰掛けたの。リョウがあたしを見て、とても自然な表情で微笑んでくれる。あたしも同じ笑顔をリョウに返していた。
「お帰りなさい、リョウ。お仕事ご苦労様」
「ただいまユーナ。今日は実家に行ってきたの?」
「うん、父さまと母さまに明日のことを話してきたのよ。リョウによろしくって言ってたわ」
「なあリョウ。ほんとにユーナでいいのか? 考え直すなら今しかないぞ」
 オミがあたしとリョウの会話に割り込んでそんなことを言ったから、あたし思わずオミをうしろから拳固で殴っちゃったよ。オミは大げさに頭を抱えてうずくまってる。そんなあたしたち姉弟の様子を、リョウとマティは笑いながら見ていた。
 オミが顔を上げると、リョウはすごく魅力的な表情で、にっこり笑いかけた。