真・祈りの巫女21
「オミ、ちょっとどうしたの? 母さまびっくりしてたじゃない」
 家を出て通りを少し歩いたところで、オミはあたしの手を引くのをやめたから、あたしはオミの背中にそう訊いてみた。なんだかオミはすごく歩くのが早いよ。あたしが小走りで追いかけているのが判ったんだろう。気付いてオミは少し歩く速度を落としてくれた。
「ちょっとね。1人で外の空気を吸いたかっただけだから。ユーナをダシにしちゃってごめんね」
「父さまと何かあったの?」
「そういうことじゃないんだ。父さんは厳しいけど、オレが好きで始めた仕事だし。……でも1日中一緒にいるとたまには独りになりたい時もあるんだ。リョウに会いたいって言ったのもほんとだよ」
 あたしはオミの隣に並んで、マティの酒場までの短い距離を歩きながら、ほんの少しだけオミを見上げていた。なんだか不思議な感じがするの。だって、ずっと見下ろしてきた小さなオミが、いつの間にか見上げるようになっちゃったんだもん。
 そういえば、オミとこんな風に2人だけで歩くのは、ものすごく久しぶりのことだった。大人になってからは初めてかもしれない。あたしは13歳の頃からずっと宿舎暮らしで、たまに家に帰る以外はずっと家族と離れて暮らしてきたんだ。
「ねえ、オミ。オミはどうして急に大人になろうとしたの? あたしが神殿へ行っちゃったから?」
 もしかしたらあたしは、オミにすごく大きな負担をかけたのかもしれない。もしも祈りの巫女じゃなかったら、あたしは結婚するまでずっとこの家で暮らしていたんだ。そうしたらオミだって11歳で大人になろうとなんかしなかったかもしれない。ほかの子供たちのようにのんびり遊んで、今の年頃でやっと大人になる準備を始めたのだろう。
 あたしがそう問い掛けた時、オミはそんなあたしの心配りにはぜんぜんお構いなしで、まるで気付いていないみたいに答えたの。
「なんとなくね。ただ早く大人になりたかったんだ。父さんの仕事ぜんぶ覚えて、早く一人前になりたいって。なんとなくそんな気がしただけだよ。時間を無駄にしたくなかったんだ」
「……どうして? なにをそんなに焦ってるの?」
「自分でもよく判らない。だけど、そうしなきゃいけない気がするんだ」