真・祈りの巫女16
 その日の午後、あたしはまた村に降りた。でも今日は村の人たちの話を聞くためじゃなかったの。いつものとおり村外れのマーサに挨拶して、家の中で太陽よりも熱いお茶をご馳走してもらいながら、昨日のレナの様子を少しだけ話した。それから今度は反対側の村外れまで歩いていく。西の森の手前には、ほかの家と少し離れたところに家があって、そこにはベイクとマイラ夫妻、そして小さなライが住んでいるんだ。
 その長い坂を上がり切る頃にはすっかり息が切れてしまって、ノックをしてマイラがドアを開けてくれるのを待ってる間に汗がじっとりにじんでくる。ハンカチで額の汗をぬぐっていると、ライを抱き上げたマイラがドアを開けてくれた。あたしの顔を見てにっこり笑ったマイラは、昔の悲しい笑顔なんて嘘みたいだった。
「ユーナ、こんにちわ。よく来てくれたわね」
「こんにちわマイラ。突然でごめんなさいね。いま大丈夫?」
「ええ、あたしはこの通りライと2人きりだからね。ユーナならいつでも大歓迎よ」
 そうマイラと会話を交わしている間にも、マイラに抱かれたライがニコニコしながらあたしに手を差し伸べてくる。そんなライの手を軽く握り返して、ライと手をつなぎながら食卓に案内されていった。ライはこの春に2歳になったばかりで、言葉をしゃべることはないけど、もしかしたらあたしのことを覚えているのかな。それとも、もともと愛想のいい子だから、誰にでも同じように愛想を振り撒いているのかもしれない。
「もうそろそろしゃべり始める頃?」
「ううん、まだしばらくかかるわね。ふつうは男の子の方が言葉が遅いから。最近ライは少しシュウに似てきたわね。このあいだまではぜんぜん違う顔をしてたのよ」
 シュウの顔、か。あたしははっきり覚えてないんだ。シュウはあたしと同じ年で、5歳の時に死んでしまったから。
「そういえば、この前見たときはベイクによく似ていたのに、今はそれほど似てないわね。なんだか子供って不思議」
 片手でライと遊びながら、あたしはライの笑顔に、シュウの面影を探していた。