真・祈りの巫女14
 神託の巫女は少しも驚いた表情を見せないで、用意していたようにあたしに語り始めた。
「人の運命には今でもまだまだ判らないことが多いから、もしかしたら祈りの巫女の言うとおりにしたら救える人もいるかもしれないわ。でも、過去にそれを考えた人がまったくいない訳ではなかったのよ」
 ……そうか、そうよね、今まで1500年もの間、運命の巫女や神託の巫女がそれを試してみなかったはずなんかないんだ。だって、2人には人の死と村の出来事が判るんだもん。
「800年くらい前に運命の巫女と神託の巫女が共同で研究した資料が残ってるの。いくつか例をあげてみるわね。 ―― ある若いきこりはその年に寿命がくるのが判っていた。運命の巫女はそのきこりが仕事中に崖崩れに遭う予言をしたの。2人はそのきこりに山での仕事を控えるように言ったわ。きこりは忠実に守っていたのだけど、ある日崖崩れが起こるのとはまったく別の森で、猛獣に襲われて死んでしまった。 ―― また、ある家族は、4人全員がいっぺんに寿命が尽きる。彼らが住む近所一帯が火事になることが判って、その一家だけを別の場所に避難させたの。でもその火事と同じ日に、一家は食事にあたって全員死んでしまった。 ―― ほかにもたくさんの例があるわ。でも、このときの運命の巫女と神託の巫女は、けっきょくただの1人も助けることができなかったのよ」
 たとえ1つの危険を避けることができたとしても、そのほかの危険がちゃんと用意されていて、必ず死んでしまう。人の寿命はすでに決まっていて、それ以上生きることはできないの? この災厄で死んでしまう予定の人は、もう助けることができないの……?
「祈りの巫女。たとえ神殿に避難してもらっても、必ず助けられるとは限らない。助けられない可能性の方がはるかに大きい。むしろ、残り少ない寿命を無駄に過ごさせてしまうかもしれないわ」
「……無駄に?」
「ええ。死ぬまでの最後の数日間、その人たちは死の恐怖に怯えながら暮らさなければならないわ。自分の死期を知って平然としていられるほど強い人間なんて、世の中には数えるほどしかいないもの。どんなにその人の死を回避したいと願っても、それはかなえられない。すべて私の心の中にしまっておくしかないのよ」
 そうなんだ。神託の巫女は、自分の辛い気持ちを押し殺して、村人全員の命を心に背負っているんだ。