真・祈りの巫女15
 巫女は、強くなければならない。村を導いていく守護の巫女も、村の未来を見る運命の巫女も、人の寿命を見る神託の巫女も、みんな心の強さを持ってるんだ。神事を司る聖櫃の巫女もきっと同じ。だから、祈りの巫女であるあたしも、ほかの巫女たちと同じように、巫女の強さを持たなければならないんだ。
 災厄や人の死に動揺しちゃいけない。心を強く持って、神様に願いを聞き届けてもらうんだ。その死が、たとえあたしの大切な人たちの死だったとしても。
「……もう、それほど遠い未来じゃないのね。村が災厄に襲われるのは決まってるんだ」
 あたしが呟くと、それまで黙って見守ってくれていた巫女たち全員が、あたしを力づけるように微笑んだ。
「なんかあたし、自分のことで浮かれてる場合じゃないみたい。……明日実家に帰るのやめるわ」
 神妙にあたしがそう言ったら、運命の巫女は急に明るい表情になったの。
「それはやめることないわよ、祈りの巫女。せっかくリョウがその気になってくれたんだもの。たかが村の災厄くらいで自分が幸せになるチャンスを逃すことはないわ」
 たかが村の災厄、って……。こういう深刻な単語に「たかが」なんてつけていいものなの? そうあたしが驚いていたら、ほかのみんなの雰囲気も明るくなって、次々と運命の巫女に同調し始めたんだ。
「そうよ。祈りの巫女が結婚するなんて、こんなおめでたいことは中断しちゃいけないわよ」
「それに幸せな未来を思い描いていた方が、きっと祈りにも力がこもるわよね」
「そうそう、この未来を手に入れるために頑張るんだ!ってね。深刻になったからといって必ずしも未来が開ける訳ではないんだから」
 そんな巫女たちの明るい声を聞いていたら、なんだかあたしもおかしくなってきちゃったよ。どうしてみんな、こんなに脳天気なんだろう。村が災厄に襲われて、たくさんの人が死んで、しかも村の未来はぜんぜん見えないっていうのに。
 このときのあたしには、この明るさがみんなの優しさなんだってことには、まったく気付いていなかった。そして、この優しさが巫女の本当の強さなんだってことに気がついたのは、ずっとあとになってからのことだった。