真・祈りの巫女13
「今の私に見えているのは、なにか大きな力に押しつぶされたいくつかの家、混乱したざわめきと苦痛の叫び、人の血の匂いと物が焼ける煙の嫌な匂い、緊迫した空気と、人々の焦りや不安、そういうものだわ。張り詰めた空気に鳥肌が立つの。いつもなら未来はもっとはっきりと見えるのよ。例えば……そうね、何年か前に祈りの巫女が西の森の沼に落ちたわよね。それを予知した時には、私には祈りの巫女が沼に落ちるのがいつの出来事なのかも、そのあと狩人のリョウが助けにくることも判っていたし、会話の内容や祈りの巫女の心の動きすらも、見ようと思えば見えたのよ。もちろんそこまで個人的なことには触れてないけれど。……だから、運命の巫女の私にとって、未来がこれだけしか見えないのは尋常なことではないのよ」
 運命の巫女はことさらあたしに気を使って、あたしがすんなり理解できるたとえ話をしてくれたみたい。あたしが理解したという風に微笑むと、それ以上運命の巫女は話をしないで、神託の巫女が引き継いでいた。
「私に見えるのは人間ひとりひとりの寿命だけど、先代の神託の巫女が生きていた10年前までも、そのあと私が襲名してからも、若くして寿命が尽きる人の割合が増えつづけていたの。最初に疑問を持ったのが先代で、その人たちが亡くなる年齢を年代に換算してみたら1500年代初頭だったから、この偶然の一致に先代はとても驚いたそうよ。知っての通り今年は1501年で、実は去年からその時期に突入しているの。この事実に運命の巫女の予言を照らし合わせてちょうだい。おそらく今年、しかもそれほど遠くない未来に、運命の巫女が予言したような災厄が起こって村のたくさんの人が死ぬことになるのよ」
 運命の巫女は今回、詳しい未来は見えてないけど、神託の巫女がひとりひとりの寿命を予言しているから、村に大きな災厄が起こると結論付けたんだ。運命の巫女には決まっていない未来は見ることができない。だから、村に災厄が起こることは、もう決まってしまった未来なんだ。
 神託の巫女はいつ誰が死ぬのかを予言することができる。この人たちを救うことはできないの? 例えば、あらかじめどこかに避難させておくとか。
「神託の巫女、今年死ぬ人が誰なのか教えて。その人たちに神殿に避難してもらえばいいわ」
 あたしのそんな言葉を、神託の巫女はとっくに予想していたみたいだった。