真・祈りの巫女10
 食事のあとは、今日話を聞いた村の人たちのことを神様に祈る。村に降りるようになってからはずっとそうしていたから、みんなもこの時間はあたしのために神殿をあけてくれてるんだ。だから、よほど特別なことがなければ、祈りを誰にも邪魔される心配はなかった。カーヤにも手伝ってもらいながら心ゆくまで神様に祈りを捧げて、最後に村の平和を祈る頃には、周りの宿舎も夜の静けさに包まれていた。
 そして、宿舎に帰ったあとは眠る前に日記をつけて、それであたしの1日は終わる。神殿の夜は麓よりも少し涼しくて、真夏でもそれほど寝苦しくはないの。たっぷり睡眠をとって、翌朝はいつものように快適な目覚めが待っている。あたしの宿舎は朝のうちは山の陰で日が差さないから、午前中くらいはあまり暑くもならなくて、お部屋で勉強するには最適なんだ。
 でも、この日の午前中は会議があったから、朝食の前に少し本を読んだだけで、食後は守護の巫女の宿舎に向かった。だいたい半月に1回、名前を持った巫女だけで集まって、いろいろ情報交換をするの。ほかにもいくつかの会議があって、祈りの巫女のあたしはほとんどの会議に出席しなければならなかったけど、この巫女だけの会議がいちばん気が楽だった。だって、運命の巫女が見た未来に変化がなければ議題なんてあってないようなもので、近所の主婦たちの井戸端会議とあんまり違いがなかったんだもん。
 あたしが予定の時間に守護の巫女の宿舎につくと、きていたのは運命の巫女だけで、聖櫃の巫女と神託の巫女はまだいなかった。
「おはよう、守護の巫女、運命の巫女」
「おはよう祈りの巫女」
「おはよう。祈りの巫女はいつも元気ね。ほんと若いっていいわ」
 守護の巫女も運命の巫女もたぶん40代半ばくらいで、2人ともあたしと同じか少し年上くらいの子供がいるの。だからたぶん2人にとってはあたしは娘みたいに見えるんだろうな。名前のついた巫女の中ではあたしがいちばん若くて、まだ到着してない聖櫃の巫女も40代後半くらい、神託の巫女は30代前半くらいだから、みんなすごくあたしのことをかわいがってくれるんだ。でも、代々の巫女の年齢と比べると、今の巫女たちはみんな若い方だと思う。いちど名前を襲名すれば、その巫女が死ぬか責務を果たせなくなるまで交代はないから、この先よほどのことがない限りこのメンバーは変わらないんだろう。