真・祈りの巫女7
 リョウがくれた北カザムの髪飾り。それはすごく大切な約束で、だから毎日朝起きてから眠る前まで必ず身につけていた。落としたら大変だからって、時々確かめるように髪飾りに触れるのが癖になってたみたい。なんとなく遅れがちにリョウのうしろを歩いていたら、不意にリョウが振り返って、それからわざわざ引き返してきてあたしの手に触れたんだ。髪飾りの上に2人の指が重なるように。
「ユーナ、大丈夫。……オレが20歳になって、それから1月で村の秋祭りが始まる。だけど祭りが終わるまで待つ気なんかないから。たとえユーナの両親に反対されたって、8月には北の山の狩りで必ず成果を上げて納得させる。だから心配しないで。オレを信じて」
 あたし、不安な顔をしてたのかな。そんなに不安に思ってた訳じゃないけど、リョウが言ってくれたことはすごく嬉しかったから、あたしは自然に顔がほころんでいたみたい。でも、ちょっと考えたら気付いちゃったよ。本当に不安に思ってたのは、あたしじゃなくてリョウの方なんだ、って。
 でもどうしてなんだろう。あたしの父さま、村の他の人と比べたってぜんぜん怖い人じゃないのに。
「あたしはリョウのことを信じてるわ。……そうと決まったら早い方がいいわね。さっそく明日帰ることにする!」
「……いや、せめて明後日にしてくれ。オレにも心の準備が……」
「だから大丈夫よ。うちの父さまも母さまも、リョウとの結婚に反対なんかしてないし、ぜんぜん怖くないんだから」
「オキが優しい人なのは判ってる。そういうことじゃないんだ。……うん、たぶん、その時になったらユーナにもきっと判るよ」
 あたしはリョウの言うことがさっぱり判らなくて、たぶんきょとんとした顔をしてリョウを見上げてたんだと思う。そんなあたしにリョウはふっと笑顔を漏らして、髪飾りに重ねた手を触れたまま、そっと顔を近づけてきた。
 リョウの唇が重なる。もう、数え切れないくらい触れた唇なのに、リョウがキスしてくれるたびにあたしはドキドキするの。リョウのことが大好きって、それだけで心の中が一杯になる。リョウ、お願い、ずっとそばにいてね。ぜったいあたしを離さないでね。もっとリョウの近くにいたいよ。いつもいつも、いちばん近くにいるリョウを感じていたい。
 優しくて穏やかで、力強くて頼りになって、でもちょっとだけ臆病なところも心の中に持ってる。それが、あたしの大好きな、いちばん大好きな、あたしだけのリョウだった。