真・祈りの巫女5
 神殿へ向かう山道では、リョウはできるだけゆっくり歩いてくれる。半分くらいのぼったところで、リョウはそれまでとあまり変わらない口調で言ったんだ。
「ユーナは今度いつ実家に帰るの?」
 リョウがそんなことを訊いてくるのは初めてだった。ちょっと不思議に思ったけど、あたしもそれほど気にしないで答えていた。
「うーん、特に決めてないわ。このところ母さまとはちょくちょく会ってるから。でも父さまとは最近会ってないの。そうね、近いうちに泊まりにいきたいわね」
「そう、それじゃ、もしユーナが行く日が決まったら教えてくれる? オレ、1度ちゃんとユーナの両親に会いたいから」
 リョウはどうしてそんなことを言うんだろう。あたしは不思議に思ってちょっと首をかしげた。リョウは3年前まであたしの実家の近くに住んでいたから、父さまも母さまもリョウのことはよく知ってる。あたしがリョウを好きだってことは2人とも知ってるから、リョウがいつあたしの家に訪ねていったって誰も変に思わないのに。
 あたしが理解できないような表情で見ていたからだろう。リョウは少しだけ困ったように、照れたように、視線を外した。
「ユーナ、覚えてるだろ? ……オレ、もうすぐ20歳になる」
 そのたった一言だけなのに、リョウはすごく言いにくそうで、あたしもリョウが何を言いたいのかすぐに判っちゃったよ。あたしは今まで1日だって忘れたことなんかなかったもん。いつの間にかあたしの歩みは止まっていて、誰ひとり通る人のいない夕暮れ時の坂道で、あたしはリョウの横顔を見上げていた。
「もし……ユーナの気持ちが変わってなかったら、今度正式にユーナの両親に話をしに行きたい。……ユーナ、オレと結婚したいって、今でも思ってる……?」
 どうしてリョウはそんなことを訊くの? あたしがリョウと結婚したくない訳なんてないよ。あたしはずっと、6歳の頃からリョウのことが大好きで、いつかリョウのお嫁さんになりたいって思ってきたんだもん。