真・祈りの巫女3
 橋の向こうでレナや他の人たちの話を聞いた帰り道、そろそろどこの家でも夕食の支度が始まる頃、あたしはいつものようにマティの酒場に立ち寄った。外はまだ日が沈むには早くて、この時刻だとお客さんは誰もいないの。あたしはお酒を飲まない冷やかしのお客だったけど、マティは嫌な顔1つしないで、いつも冷えたお茶を1杯出してくれた。
「リョウは今年も北の山に行くんだろ? ユーナも寂しくなるな」
「うん。でもまだ行かないわ。今年は8月の始め頃にするんだって」
「へえ、それはまた、ずいぶん厳しい仕事になりそうだな。暑くなるとそれだけ北カザムの群れは山の上の方に移動しちまうらしいじゃないか」
「そうみたいね。あたしにはあんまりよく判らないけど、山の上の方は岩肌が多くてちょっと危ないみたい。でも逆に群れが狭い範囲に集まるから、その分群れを探し回る時間が省けるんだって。リョウも今年でまだ3年目だから、いろいろ試してるみたいよ」
 マティは人の話を聞く機会が多いから、狩りのこともその他のこともすごくたくさんのことを知ってるの。ここにくるお客さんは、時々マティに悩み事を打ち明けたりもするから、マティはたまにあたしに悩んでる人の情報を教えてくれる。マティは、祈りの巫女のあたしにとってもすごく助かる存在だった。でも、あたしが毎日ここにくるのは、それだけが理由じゃなかったの。
 しばらくマティと話をして、そろそろ日も傾いてくる頃、この店には2人目のお客がやってくる。背後に気配を感じて、マティが微笑むのと同時に振り返ると、店の入口からリョウが入ってくるのが見えたんだ。
「こんにちわ、マティ」
「いらっしゃい、リョウ。ユーナがお待ちかねだよ」
「リョウ、お帰りなさい!」
「ただいま、ユーナ」
 満面の笑みを浮かべてあたしに笑いかけて、リョウはカウンターのあたしの隣に腰掛けた。マティの酒場はあたしとリョウの待ち合わせ場所なの。リョウの顔を見ただけなのに、あたしは嬉しくて自然に顔がほころんでいた。