真・祈りの巫女2
 午後になると村に降りるのが、最近のあたしの日課になっていた。
 真夏の太陽は熱くて、森の道を出ると途端にジリジリと照りつけてくる。森の向こうに広がる草原の草花も、暑さでちょっとバテてるみたいよ。こんな午後は宿舎でお昼寝してる方が気持ちがいいのよね。でも、村のみんなのことが気になるから、今日もあたしは村への長い坂道を歩いていった。
 村外れ、神殿から歩いてくると最初に見えてくる家に住んでいるのは、母さまよりもちょっと年上くらいのマーサ。あたしが通る時間にはいつも洗濯物を干していて、姿を見て必ず声をかけてくれる。
「こんにちわ、祈りの巫女。こんな暑い日に通ってくるんじゃ大変だねえ」
「こんにちわ。それを言うならマーサも同じよ。毎日暑いのに外でお洗濯だもの」
「もうすぐ終わるところだよ。祈りの巫女、太陽よりもっと熱いお茶でも飲んでいくかい?」
 マーサはいつもそうしてあたしを誘ってくれる。でも、マーサと話をすると長くなるから、あたしはにっこり笑って言った。
「ありがとう。でも今日はいいわ。サネ橋の向こうまで行くつもりだから、あまりゆっくりしてられないの」
「そうかい。だったら娘のレナに会ってくれるかね。このところつわりがひどくて滅入ってるようなんだよ。あたしも橋の向こうまではなかなか行けなくてね。話だけでも聞いてやってくれるかい?」
「判ったわ。サネ橋の向こうのレナね。様子がわかったらまた知らせるわ」
「ありがとう、祈りの巫女。助かるわ」
 マーサにお別れを言ってあたしはまた歩き始めた。そのあとも、家の前で仕事をしている人の前を通るたびに、あたしはサネ橋の向こうの人たちの情報を聞いて、頭に入れていった。最初に情報を仕入れておくとあとが楽なの。みんな、自分がなにか困ってたとしてもなかなかあたしに話してくれないから、こうして他の人に聞いて歩くのがいちばんだった。あたしの仕事は、困っている人の悩みを神様に打ち明けて、幸せにしてあげることだから。
 村のみんなの幸せを神様に祈るのが、あたし、祈りの巫女ユーナの仕事なんだ。