時の双曲線・3
 彼女の気持ちはずっと以前から知っていた。そして、オレがその気持ちにこたえることができないことも。
「聞いて、運命の巫女。……オレはここに残ろうと思う」
 顔を上げた彼女の目は、見る間に見開かれていった。
「そんな……。災厄は4日後にはこの山にも襲ってくるのよ。神殿だって無事には済まないわ!」
「ああ、たぶん無事じゃいられないだろうね」
「シュウ、まさか死ぬつもりなの……?」
 そうだな、オレは死にたいのかもしれない。あの日大好きだったユーナを死なせてしまった時から、オレはもしかしたら生きていなかったのか。
 いや、オレはやっぱり生きたいと思ってるよ。この書庫の本をすべて読み尽くすまで。だってオレは、この村が1500年間蓄えてきた知識が欲しくて、この村に生まれて、神官になったのだから。
「運命の巫女、君には未来が見えるから、神殿が4日後に災厄に襲われることも、村が滅びてしまうことも判ってる。だけどオレはまだ諦めたくないんだ。……この書庫の蔵書の中に、もしかしたら既に決まってしまった未来を変える方法が埋もれているかもしれない」
 以前、噂で聞いたことがある。書庫の書物の中には禁書があって、守りの長老が管理しているんだ、って。もちろんただの噂でしかないから、それが必ずあるとは限らないし、たとえあったとしても見つかるかどうかは判らない。見つかったとしても、それは今のオレにはなんの意味もない知識かもしれない。
 だけど、たとえ万に1つの可能性でも、それがある限りオレには諦めることなんかできないんだ。
「ごめんね、オレは君と一緒には行けない」
 運命の巫女はオレを見上げたまま、必死で涙をこらえていた。その表情に、オレはまた小さな幼馴染の面影を重ねていた。

  ―― ユーナ。オレの小さな女の子。もう1度同じ人生を歩めるなら、今度こそぜったいに死なせたりしないよ。
「……運命の巫女、もしも未来を変えることができたら、その時また会おう」