時の双曲線・2
「……シュウ、守りの長老も守護の巫女も、村を捨てることに決めたわ。あたしにはどうすることもできない。……村の運命が見えるの。村を捨てたら、村人は散り散りになってこの村が滅びてしまうわ」
 オレには何もできなかった。ただ、この幼い少女の肩を抱いていることしか。
「この先の未来には何もないの。……どうしてあたしは運命の巫女になったの? こんな未来が見たくて巫女になりたいと思ったんじゃなかったのに……」
 村を襲った巨大な災厄。多くの村人が命を落として、先代の運命の巫女も災厄との戦いで死んだ。彼女は自分が死ぬことが判っていたのだろうか。判っていて、運命に従う道を選んだのだろうか。
 オレは、こんなところで滅びるために生まれてきたのだろうか。
「オレのせいかもしれないな。……オレがあの日、祈りの巫女を助けていたら、未来は変わっていたかもしれないのに」
「シュウのせいじゃないわ! だってその時シュウはたったの5歳だったのよ。そんな小さな子が人の命を助けるなんてことができるはずないもの」
「ごめんね、大丈夫、判ってるよ。あの時オレにはどうすることもできなかった。だけど……。もしもユーナが生きていたら、ユーナが祈りの巫女になっていたら、村の災厄は防げたかもしれない。それは事実だよ」
「……いいえ、やっぱりダメよシュウ。……こんな、今まで村が経験したこともないような大きな災厄、祈りの巫女1人の力だけではどうにもならなかったわ。たとえ祈りの巫女が生きていたって、たった1人じゃ……」
 運命の巫女が言ったことは、ユーナが祈りの巫女になるはずだったことを知ったオレが、自分への慰めのために生み出した理論だ。この災厄には祈りの巫女では太刀打ちできない。もしもユーナが生きていたとしても、村の滅びが少し先へ伸びていただけなのだと。
 その時、運命の巫女は涙をこぼして、それを見られまいとするかのようにオレの胸に顔をうずめた。
「シュウ……お願い、あたしを連れて行って」
 それは、おそらく運命の巫女が初めて勇気を振り絞った、オレへの告白だった。