続・祈りの巫女98
「リョウ、待って!」
 せっかくリョウがキスしてくれたのに、あたし最悪。きっとリョウ怒っちゃったよ。そんなに早足じゃなかったけど、リョウが普通の歩き方で歩いたらあたしは小走りでついていくのがやっとで、必死で追いかけながらリョウの背中に声をかけた。
「ごめんなさいリョウ。あたし、泣いてたから鼻で息できなかったの。リョウは泣いたことがないから判らない? 泣くとね、涙が鼻水になっちゃって、鼻が詰まっちゃうのよ。だから怒らないでリョウ。リョウがキスしてくれたのが嫌だったんじゃないの」
 言いながら、あたしはまた泣きたくなっちゃったよ。リョウが初めてしてくれたキスだったのに、あたし、もっとちゃんとリョウのキスを感じたかったよ。
 そうして少しの間リョウを追いかけていたら、やがてリョウはぴたっと足を止めた。
「リョウ?」
「……あ、うん。ごめん。ちょっとオレ、自分に驚いてた」
 リョウは片手で頭を抑えて、そのまましばらくじっと考えているみたいだった。あたしもリョウの言葉の意味が判らなかったから、うしろからリョウを見守っているしかできなかった。
「外を歩いたら少しは頭が冷えると思ったんだけど。……ごめんね。危うくユーナを窒息死させるところだったな」
 そう言って再び振り返ったリョウには、さっきあたしを抱きしめた時の雰囲気なんか微塵もなかった。なんか、リョウがあたしにキスしてくれたなんて、まるで嘘だったみたい。でも、あたしを見てほんの少ししたとき、リョウの表情はまた変わって、なんだかすごく幼い顔で拗ねたように見えたんだ。
 そんな表情で、リョウはゆっくり近づいてきて、そっとあたしの肩を抱いたの。
「やっぱり、顔を見ちゃうとダメだな。……狩りから帰ってきて、ユーナに会ったら最初に言おうって思ってた。なんかいろいろあってタイミング外れたけど、おかげでずいぶん言いやすくなった。
  ―― ユーナ、オレと結婚して欲しい」