続・祈りの巫女95
「送っていく」
 そう一言だけリョウは言って、あっという間に寝室から出て家の外まで歩いていってしまった。あまりの出来事に呆然としちゃったよ。あたし、またリョウを怒らせるようなことを言ったの? またリョウは何か誤解したの? あたしはリョウのお嫁さんになりたいって言ったんだよ。これ、どう解釈してもぜったい誤解できないと思うし、リョウがあたしと結婚したくないと思ってたって、それなら「オレはユーナと結婚する気はない」って言えばいいだけだと思うんだけど。
 もちろん、そんな言葉を言われたらあたしは悲しい。リョウの目の前でわんわん泣いちゃうかもしれない。そうか、リョウは優しいから、もしかしたらあたしを悲しませるのが嫌でその言葉を言えないのかもしれない。あたしを傷つけたくないから、どう言えばいちばんあたしが傷つかないか、それを今独りで考えてるのかな。
 んもう、結果が同じならどう言ったって同じだよリョウ!
 あたしも部屋から出て、家の外にリョウのうしろ姿を見つけて、気配に気づいたリョウが歩き始めたそのうしろをついていったんだ。
 リョウの歩き方はゆっくりで、あたしにどう話をしようか考えているのが判った。あたりはもうかなり暗くなりかけていて、道が見えないほどじゃなかったけど、でもうっかりしていたら段差につまづいて転んでしまいそうだった。リョウはずっと下を見たまま考え込んでいたけど、やがて大きく溜息をついて、やっと最初の一言を話した。
「ユーナ、オレは勝手に考えて、ユーナに必要とされてないと思った」
 ……そうか、さっきあたしがリョウの言葉をさえぎっちゃったから、リョウはその続きを話し始めたんだ。リョウにはまだ言いたかったことがあるんだ。今度は邪魔しないように、あたしはもう何も話さないって、心の中で自分の口を縫い付けた。
「オレがユーナに毎日会いに行ってたのは、ユーナに何かあった時に助けたかったから。毎日ユーナの話を聞いてたら、ユーナに何かあったときにはすぐに判ると思ってた。ユーナに必要とされる男でいたくて、だから夏の狩りのことも話さなかったんだ。だけど、そんなことを続けてても、けっきょくユーナはオレを必要としてなかった。このとき、オレはもうどうしたらいいのか判らなくなっちまって……。恥ずかしいことだな。オレは、何もかもから逃げ出したくて北の山へ行ったんだ」