続・祈りの巫女94
「……リョウ、勝手に自分だけで考えて、あたしのこと判ったような気になって、必要ないなんて言わないでよ。リョウがいなくて、もう2度と帰ってこないかもって、おかしくなりそうだったんだから。リョウがいつもいつも優しかったら、リョウが怒っててもあたしには判らないんだよ。知らない間に傷つけてるかもしれないって、そんなこと思ってたら、あたしリョウに何も言えなくなっちゃうよ。リョウがいない間あたし本当に怖かった。リョウのこと傷つけて、でももう一言も謝れないのかもしれないと思って……」
 目に、たくさん涙がたまってて、リョウがそっと手を伸ばして頬に触れた時、一筋ずつこぼれ落ちた。リョウがすごく戸惑ってるのが判った。感情が高ぶりすぎて涙が出ちゃうなんて、すごく子供みたいで嫌だったけど、でもこれがあたしなんだ。リョウに子供のように扱われて、リョウの恋人にはまだまだふさわしくないって思われても。
「……たぶん、ユーナの言うとおりだな。オレは自分で勝手に考えて、ユーナのことを判ったような気になってた」
 リョウは、あたしの涙をずっとぬぐっていた。ゆっくり、たぶん必要以上の時間をかけて。
「ユーナは誰のことでも一生懸命で、夢中になると他のことなんか何も見えなくなる。カーヤのことでも、泣きながらオレに怒鳴り込んでくるくらい一生懸命だった。だから、ユーナがオレのことで一生懸命になってくれるのも、その延長なんだって思ってた。ユーナがオレのことを好きだって言ってくれるのは、オレがずっとユーナに優しくしてきたから。そう思い込んでた」
 そうなの? あたし、リョウは誰にでも優しいから、あたしへの優しさが他の人に向けたのと同じなのかどうか悩んでた。同じようにリョウも、あたしが誰のことでも一生懸命だから、リョウに向けた一生懸命も他の人と同じだと思ったの?
 カーヤに言われた、あたしは自分の気持ちが伝わりにくい人なんだ、って、もしかしたらこのことだったのかもしれない。
「あたし、リョウのこと他の人と同じになんか思ってなかったよ。あたしは父さまも母さまもカーヤも好きだけど、リョウを好きなのとはぜんぜん違うの。カーヤが頭が痛いって言えばすごく心配だけど、リョウのことはなにもなくても心配なの。ほかに心配事が何もなかったら、気がつくとリョウのことを考えてるの。あたし、もっと大人になったら、いつかリョウのお嫁さんになりたい。そう思ってるの」
 あたし、もうぜったいに誤解されないように、心のぜんぶの想いを込めてリョウに言った。あたしがそう言ったあと、リョウは唇を固く結んで、あたしから目をそらした。そして、しばらく沈黙したあと、突然リョウは勢いよくベッドから立ち上がったんだ。