続・祈りの巫女93
「前にユーナには話したことがあるね。オレは子供の頃、ユーナがシュウとばかり遊ぶのが悔しくて、ユーナに意地悪ばっかりしてた。オレの我儘でユーナを傷つけてた。シュウが死んでからはユーナにずっと優しくしてきたけど、それで足りるなんて思ってなかったんだ。どんなにオレが優しくしたって、あの頃ユーナを傷つけてた事実に変わりはないんだ。昔のことを思い出したユーナは、最初は以前と変わらないように振舞ってたけど、そのうちどことなくオレを怖がるようになった。小さな頃、オレにいじめられてたことを無意識のうちに思い出してるんだ」
 リョウ、そんな風に思ってたの? 違うよ。あたしがリョウを怖いと思ってたのって、小さな頃のことを思い出したからじゃないよ。リョウがずっとあたしに優しくしてくれて、だけどその優しさの中に違うリョウがいるってことを無意識に感じてたからなんだ。本当のリョウは優しいだけじゃないんだ、って。でも、あたしはその違いをリョウにうまく説明できる気がしなかった。あたしは黙ったままだったし、リョウはあたしの顔をぜんぜん見ていなかったから、何ごともなかったかのようにリョウは話を続けた。
「だからオレはもっとユーナに優しくしたかった。優しくすればユーナはオレを怖がらなくなって、いつかは子供の頃のことを忘れてくれるって。でも……ユーナが言ったんだよな。優しくなくてもいい、って。優しいオレじゃなくてもいいんだって。その時オレ、ユーナに否定されたような気がしたんだ。オレはユーナにはもう必要のない人間なんだ、って ―― 」
「違うもん!」
 気がついたらあたしはそうリョウの言葉をさえぎっていて、驚いたリョウはあたしを振り返っていた。
「あたし、そんなつもりで言ったんじゃないもん! リョウがずっとあたしに優しくしてくれて、あたしは嬉しかったけど、でもそれってリョウがすごく無理してるみたいに見えたんだもん。本当のリョウはもっと怒ったり拗ねたり、たくさん心の中にあるのに、それをぜんぶ殺してたらそれはリョウじゃないんだもん。あたしは優しいリョウでいてくれるより、嫌なことはちゃんと怒ってくれるリョウでいて欲しかった。タキの話をしたら「オレの前で他の男の話なんかするな!」って怒って欲しかったんだもん。リョウのことが大好きだから、リョウの好きなことも嫌いなことも、あたしはぜんぶ知りたいよ……」
 一気に感情が高ぶってしまって、あたしは少し涙目になっていた。