続・祈りの巫女92
 あたしが謝ったのに、リョウは黙ってあたしに背を向けているだけだった。リョウ、まだ怒ってるの? こんなことで怒ったまま許してくれないなんて、いつものリョウじゃないよ。
「リョウ?」
 あたしがそう声をかけたら、ようやくリョウはぼそっと呟いたんだ。
「……ベッドになんか座るんじゃなかった」
「……え?」
「いや、なんでもない。……ユーナ、今オレが何考えてるか判る?」
 リョウは向こう側に足を組んで、横目であたしを見て言った。こんなリョウ、あたしは知らない。だから今リョウが何を考えてるかなんてぜんぜん判らないよ。そう思って、あたしが首を振ったら、リョウはまた視線をあさってに向けてしまった。
「判らないならそれでかまわないから、ぜったいそこから動かないこと。間違ってもオレに近づいたりするなよ。できれば黙って、今度はオレの話を聞いて。つまらなかったら途中で帰ってもいいから」
 リョウ、いったい何を怒ってるんだろう。あたしに、近づいたりするな、って。あたしが近くにいるのが嫌なくらい、リョウはあたしを怒ってるの? もしかして、あたしが内緒でリョウにキスしたのが、リョウはそんなに嫌だったの?
 そこまで考えてあたしはすごく悲しくなった。でも、そのあとすぐにリョウが話し始めたから、言われたとおりじっと動かないでリョウの話に耳を傾けたんだ。
「まず始めに、ユーナにはちゃんと謝らないといけない。オレ、ユーナに何も言わないで8日も村を空けたんだ。ユーナがすごく心配してくれてたことを今日ランドに聞いたよ。本当にごめん。最初にちゃんと話してから行くべきだった」
 そう、あたしに頭を下げた時だけ、リョウはあたしの方を向いた。あたしは自分の中ではリョウを許していたし、だからリョウの謝罪を受け入れずにいる理由はなかった。あたしが「次からはちゃんと知らせてから出かけて」と言って微笑みかけたら、リョウも少しだけ微笑んで、そのあと弾かれたようにまたあちら側を向いてしまった。