続・祈りの巫女91
 自分がうなずいた時のリョウの表情を、あたしは見ていなかった。恥ずかしくて、うなだれたまま顔を上げることができなかったから。あたしの両肩を掴んだリョウの手は、力を入れすぎたみたいで震え始めてた。あたしもたぶん痛かった。でも、そんな痛みはぜんぜん気にならなかったんだ。
 やがて、リョウはゆっくりと手の力を抜いて、あたしを掴むのをやめた。あたしも少しだけ落ち着いてきたから、やっとリョウを見上げることができたの。リョウの目はあたしを見ていた。いつものリョウとはちょっとだけ違う、でもすごく優しい微笑を浮かべて。
「ユーナ、いつまでもゆかに座らせておいてごめんね。ここへ座るといいよ」
 リョウはそう言ってベッドの隣を少し空けてくれた。あたしもまだ戸惑っていたけど、リョウの言うとおり、少し膝の砂を払ってからリョウの隣へ座りなおした。こうして隣に座ると、リョウはすごく背が高いんだってことに気がついた。ずっと知ってることなのに、ふとした瞬間、いつもあたしはそのことに気がつくんだ。
「オレに会いにきてくれたの?」
 そう、リョウが言ったから、あたしもここへくるまでに考えてたことを思い出していた。
「謝りにきたのよ。さっきはごめんなさい。リョウが帰ってきてくれたのに、あたし逃げたりして」
「ユーナが怒っててもしかたないよ。黙って狩りに行ったのはオレが悪いんだから。オレの方こそ謝らないと」
「ううん、さっきのは違うの。あたしあのあとランドとカーヤに怒られたもん。……あの時ね、リョウがすごくキラキラしてて、すごくきれいな笑顔で、まるで知らない人みたいに見えた。あたしが好きなリョウはこんな人じゃないって、そう思ったの。すごくドキドキして、それ以上リョウのこと見ていられなかった。だから逃げたの。リョウのこと怒ってたからじゃないの。だからごめんなさい」
 あたしが話している途中から、リョウは驚いたような、信じられないような表情であたしを見ていた。そして、あたしが言葉を切ると、唇を固く結んで反対側を向いてしまったんだ。リョウ、どうしたんだろう。カーヤは、あたしがこのことをリョウに話したら、答えはリョウが教えてくれるって言ってたのに。
 あたしがリョウに声をかけようと少し乗り出したら、リョウは逆にあたしから遠ざかるように座る場所をずらした。