続・祈りの巫女90
 あたしがちょっと焦りながらリョウを覗き込んでいた時、リョウはぱちっと目を開けて、とたんに驚いた表情を顔に浮かべた。それから勢いよく上半身を起こしたから、リョウはベッドの向こう側の壁に頭をぶつけてしまったんだ。だけどそんなことにはぜんぜん気がついてないみたいだった。頭を抑えることもしないで、驚いた表情のまま、あたしを見つめていた。
「ユーナ……。今、オレにキスしてた……?」
 やだ、リョウ気がついてる! あたし、自分がしたことの恥ずかしさで、ほとんどパニックに陥っていた。
「あ、あの、ごめ、ごめんなさ……」
「謝らないで! ……お願いだ、ユーナ、頼むから」
 リョウはあたしの肩を掴んで、あたしの言葉をさえぎった。リョウの顔が間近になってしまって、でも両肩を掴まれたあたしはベッドの前に膝をついたまま逃げることもできなくて、まともにものを考えることもできなくなってしまった。リョウが怒ってるよ。それだけで、あたしにはリョウが言ってることなんて、ぜんぜん耳に入ってなかったんだ。
「あの、だから、そんなつもりじゃなくて、起きてるなんてぜんぜん思わなくて……」
「言い訳を聞きたいんじゃないんだ! ユーナ、ほんとにオレにキスしたのか?」
「えっと、……ごめんなさい」
「謝るなって! オレ、このことだけはぜったいユーナに謝られたくない!」
 そう半ばリョウに怒鳴られるみたいになって、あたしは思わず口をつぐんだ。あたしの頭はパニック状態で、口を開いたらもうごめんなさいしか出てこなくなっちゃってた。でも、謝れば謝るほどリョウは怒るんだもん。心臓がドキドキして、リョウの顔をずっと見つめているしかできなくなって、あたしをじっと見つめていたリョウはやがて少しだけ息をつくように視線をそらしたんだ。
「……ごめん、ユーナ。大きい声を出して。……1つだけ、首を振るだけでいいから教えて。今、オレにキスした……?」
 秘密にしようって思ってた。ぜったい誰にも教えないって。でも、しょうがないよ、本人に見つかっちゃったんだもん。あたしは恥ずかしくて、でも謝ることもできなかったから、少しだけ顔を上げたリョウの視線を避けるように1つ、うなずいた。