続・祈りの巫女88
 それでもしばらくはうだうだ悩んでいたのだけれど、そのうち呆れたカーヤに宿舎を追い出されてしまって、しかたなくあたしはリョウの家への坂道を降り始めた。最初にリョウを見たときのようなドキドキは落ち着いてきていたけど、少しでもリョウを思い出すとすぐに復活してしまいそうで、あたしは道の途中何度も立ち止まってしまった。この道、リョウがあたしが歩きやすいようにって、坂の急なところには階段をつけてくれたんだ。小さな川には橋をかけて、リョウの家の前にある1番急な坂道には、階段に手すりもつけてくれたんだ。
 リョウはあたしのところに毎日会いにきてくれた。だけど、それよりずっとたくさんの時間を、あたしのために費やしてくれてる。リョウが作った道をゆっくり歩きながら、あたしはリョウが真っ先にあたしに会いにきてくれなくて悔しかったことを、とても恥ずかしく思ったんだ。だって、リョウがいなかったのってたったの9日間なの。そんなの、リョウがあたしにくれた時間と比べたら、ほんとにわずかな時間だったんだ。
 自分のために時間を使ったら、たった9日間でもリョウはあんなにキラキラできる。ランドはあたしがおかしいって言ったけど、やっぱりリョウは少し変わったよ。ランドは気づいてないのかな。それとも、リョウはランドにはいつもあんな笑顔を見せていて、あたしが今日初めてその笑顔を見ただけだったのかな。
 あたし、リョウがどんなに変わっても、ぜんぶ受け入れようって思ったのに。リョウに変な態度を取ってまたリョウを傷つけちゃったよ。ちゃんとリョウに謝らなくちゃ。リョウに謝って、あたしが思ってることぜんぶ、リョウに話すんだ。
 そう、心を決めてあたしは、リョウの家のドアをノックした。でも家の中から返事はなくて、あたしはちょっと迷ったけど、ドアをそっと開けてみた。テーブルの上にはリョウが使っている狩りの道具が積んであって、いつもはきれいに整備しているのにまだ手をつけてないみたいだった。寝室のドアも開いたままで、覗き込むとゆかに靴が脱ぎ散らかしてあって、ベッドの上にリョウが仰向けで眠っているのが見えたんだ。
 音を立てないように、あたしはリョウの寝室へ入って、ベッドのそばに膝をついた。そのまま、疲れて眠るリョウの寝顔を、しばらく見つめていた。