続・祈りの巫女86
 宿舎に駆け込んで、そのまま自分の部屋のドアを開けて飛び込んだ。心臓がドキドキ言ってる。ベッドに崩れ落ちるように突っ伏して、あたしは少し落ち着けるように、大きな深呼吸を何度もした。それでもなかなか心臓の鼓動が収まらなかった。日に焼けて真っ黒になったリョウの顔が、強い日差しに映えてすごく綺麗で、その笑顔が眩しくて、あたしはどうしたらいいのか判らなくなってしまったの。
 あんなの、リョウじゃないよ。あんなにキラキラしてて、こんなにドキドキするリョウなんてあたしは知らないよ。あたし、リョウがあんな風に笑ってくれるなんて思ってなかった。ううん、リョウがどんな顔をするかなんて、あたしはぜんぜん想像してなかったんだ。
「ユーナ、どうしたの? いきなりいなくなっちゃうなんてユーナらしくない」
 心配してくれたんだろう、カーヤがドアを入ってくる。あたし、自分の部屋のドアを閉め忘れたんだ。突っ伏したままのあたしを見て、カーヤはちょっと驚いたみたいだった。
「どうしたのユーナ。……泣いてるの?」
 あたしは顔を伏せたまま何回も首を振った。それで少し安心したのかな、カーヤはあたしの隣に膝をついて、肩に手を乗せて言った。
「ダメじゃないユーナ。せっかくリョウがユーナに会いにきてくれたのに」
「……あんなのリョウじゃないもん。あたしの知ってるリョウじゃないよ」
「どうしたの? まさか怒ってるの?」
 あたしはもう1度首を振った。その時、今度はちゃんとドアを開ける音がして、すぐにランドの声が飛び込んできたんだ。
「ユーナ! おまえなんだって逃げるんだよ。せっかくオレが感動の再会を見ようとこんなところまでリョウについてきてやったってのに」
 ランドはずかずかとあたしの部屋まで入ってきて、カーヤの反対側からベッドに腰をかけた。
「ねえ、ユーナ。どうして逃げたりしたの? リョウのことを怒ってるんじゃないの?」
「なんだよおまえ。リョウを怒ってるのか? そりゃ、おまえに何も言わずに狩りに出かけたのはあいつが悪いかもしれないが、その程度のことでいちいち怒ってたら狩人の嫁はつとまらないぞ」